24人が本棚に入れています
本棚に追加
/100ページ
第六十九夜 くちなわ
由麻と凪の姉妹に、その後おかしなことは何もなく、妖に取って代わられたなどということも御座いません。御心配なきよう。ただ、神宮の周辺で異様な出来事が続いているのは確かです。
また、それは私の足下にも伸びて来ているようですね。送るべき鬼の一人が、なにやら悪さをしているらしい。露見しておらぬと思うておるあたり、愚かなもの。
しかし、時にはそうしたことも必要となります。個々には悪しき企みであっても、全体として善をなすこともあるのです。
知らぬと思うて、ほんに愛らしい。気生根といい、龍穴といい、この社の大穴を抜けてその先へ。抜け出すことができずとも、神霊を騙り、他者の名を騙り、現世に手を伸ばそうという愚か者、その名をくちなわと申します。
……ふん、愚か者だなんて考えてんだろ。
あの女は本当にくずさ。穴の底で青息吐息、姉のかさねがいなけりゃ、三日と言わず、一日も経たずに殺されてたろうに。
殺し、殺された相手と、死んだ後まで仲良く過ごすなんざ、まっぴらごめんだ。まったくいい迷惑さ。おのれらの因縁に巻き込みやがって。挙げ句の果てが、化け犬か。
あんな女を慕ったばかりに、骨と化して後までも、外法箱に祀られ、犬に喰われ、化け犬になっちまった。哀れな男さ。
だが、生きてた頃も犬みたいな野郎だったんだ。本家の犬に相応わしい生き方、死に方、ついでに化け方ときた。
こいつは、ちょっとした憂さ晴らし。
哀れな化け犬となった男、くずの想い人を見物にきたんだ。さて、大穴の最奥には心御柱があるんだが、そんなところに用はない。その前の脇穴が、十七年先の現世につながっているのさ。
ちょうど化け犬が襲ってきたところらしい。さすがに、喚ばれもしないのに現世に顕現することはできないね。
なら、この子を使おう。くちなわ秘蔵の白蛇様さ。さあ、行け。穴の向こうでなにが起きているのか、余さず伝えよ。くずのやつに、おのれの所業の結末を見せつけてやれ。
最初のコメントを投稿しよう!