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第七十二夜 蝙蝠
目で見る世界と、耳で聴く世界とは同じであって同じではない。植物に目はなく耳もなく、故に世界を知らないと言えるでしょうか。
植物も光を感じているのです。太陽、つまり栄養を求めて。視覚は捕食と一体で進化してきました。他者を効率よく喰らうための器官なのです。目玉は他者を喰らう。
一方で、生活環境から、聴覚で他者を喰らうものもあります。それが蝙蝠です。
水穴と風穴とを繋ぎ、大穴へと向かう洞窟に潜む蝙蝠の話を聞いてみると致しましょう。
……けけ、くだらねぇ。
カルキノスだったか、あいつ同様、サワガニどもは無駄死によ。無駄死には、しょせん無駄死に。そこに美学があるなどと思うのは、ただの勘違いさ。踏みつぶされたあと、空に上げられたからといって何になる。
おれは大穴の入口に住むコウモリだ。
おっと、おかしなことを想像してもらっちゃ困る。吸血鬼だとか悪魔だとか、そんな連中と関わりはない。
ここに住みついたのもエサが豊富だからで、黄泉穴だとか心御柱だとか、そんなこととも関わりなしだ。
コウモリをなにかのオマケみたいに思ってもらっちゃ困るぜ。けけ、おれはおれさ。
サワガニの連中になんの義理があるわけでもねぇ。だがまあ、ご近所さんではあるし、多少の親しみがないでもない。あまり機会はねぇが、食べりゃあ不味くもねぇしな。
パチリ、パチリ、プツンと大事な糸を切られて、九頭一尾の化け犬は相当あたまに来たらしいや。ゴウゴウと吠えて目を閉じたと思うと、全身に無数の目が浮かび上がった。もはや、犬だかなんだかさっぱりわかんねぇな。なにを見てなにを喰らおうというんだか。
無数の目玉がギョロリと人間の女を睨んだ。
サワガニとシロヘビが、ヨシノと呼んでいた女だ。どうやら、化け犬はこやつに御執心。喰う側の目玉にゃ恐怖を思わせるなにかがある。おれだって、フクロウに睨まれちゃ生きた心地がしないね。
声も出せなきゃ、身動きもできねぇんだろうな。人間どもは固まっちまって、そのまま喰われちまうのかと思ったが、化け犬に負けず劣らず、ゴウゴウと吠えて白い犬が飛び出し、喉元なんてものがあるかどうか知らねぇが、化け物の喉元に喰らいついたのさ。
喰われるものと喰うものとが入れ替わる瞬間ってのはたしかにある。
だが、その白い犬が優位に立ったのは一瞬のことで、すぐに振り払われ、目玉だらけの化け物に噛み殺されちまってた。
その間に、ヨシノとやらがそばにいた男とともに弓をひいたのさ。いつのまに構えたか、ぎりぎりと引き絞られた矢が青白い炎を発し、ひょうと空を飛んだ。
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