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第七十八夜 余次郎
大丈夫よと声をかけたものの、この時の私はまだまだ虚弱の極み。結局、姉のかさねに頼ることとなりました。
もう相手の首領の顔も忘れましたが、なかなかの人物で御座いました。ふふ、悪い意味でね。人間のくずとして名付けられた我が名にも負けないくずっぷり。
下についていた方々も、少々あきれておったようです。その一人にして、気の進まぬながら、ほそみを槍で突いていた男の話です。十二番目の息子として余次郎と名付けられた方で御座います。
……はぁ、やだやだ。
子どもを嬲る趣味なんてないのにねぇ。上役が無能だと下僕は苦労が絶えん。しょせん相手は子どもだ。食い物のひとつもやって優しい言葉をかけてやればいいものを。戸隠の鬼の居場所を知るくらいのこと、いくらでもやりようがあろうにさ。
だが、すまないな。餓鬼を突き殺したくはないが、これが生業だ。獣や魚を獲る方が、よっぽど罪がないってもんだ。官人も都の貴族も、さぞかし罪深いこったろう。
ま、急所は外してやるからよ。くそ野郎が飽きてきたらやめてやるさ。
そんな感じで気の進まぬ仕事をしていた時のことだ。強情さに腹が立ったか、虫の居所が悪かったか、くそ野郎が自分で槍を振るい始めた。技量もなく、突き刺すまではいかないが、いつ突き殺してしまってもおかしくない。下手くそだから余計にだ。
やめて! と声をあげたのは、ひきめという娘だった。ほそみが死んじゃう、と男の餓鬼を庇うようにして、くそ野郎をにらんだ。
心の中では、よしよしよくやった、もっと睨んでやれというところだが、いやいや、これはだめだ。余計に怒らせちまうぞ。
思ったとおり、腹を立てたくそ野郎は、槍の柄で娘の顔を殴りつけた。それでもめげずに睨み返してくるあたり、ひきめとやらも相当に強情な気の強い娘だ。だが、それがさらに怒りをかったのだろう。くそ野郎は、
なんじゃ、その目は! 生意気な。はよう鬼の居場所をいえ!他の者でも良いぞ。言わねば、この娘、このまま突き殺してくれる。
と勝ち誇ったように叫んでいた。武器ももたぬ餓鬼相手に情けないばかりだ。
卑屈な吠え声が相手に響くわけもなく、蔑むような目で見られて本気で娘を突き殺そうとした。
鬼が来たのは、まさにその時さ。
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