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第九十一夜 御船雷光
土蜘蛛の里を滅ぼしたのは御船碓氷で御座いました。しかし、それを命じたのは御船家当主の御船雷光です。
ちょうど、りんが碓氷に捕らえられたころ、なにも知らぬ漁火が本家を訪ねてきておりました。武器と綱丸を相手方に引き渡し、丸腰で雷光の謁見を待ちます。
その間、実は先客があり、雷光の弟である具風が訪ねてきておりました。これは誠実な男で、雷光が碓氷からの報告のみで土蜘蛛の里を滅ぼし、漁火をも使い捨てようとしていると聞き、諫めに来たのです。
時すでに遅し。具風や漁火の知らぬまに土蜘蛛の里は滅ぼされ、りんも捕らえられてしまっている。
今宵は、御船一族の当主にして酷薄な男、御船雷光の騙りを聞いてみるといたしましょうか。
……具風め、相変わらず煩い奴だ。
俺は親父とは違う。土蜘蛛を祖とする一族に御船の名を与えたこと自体が間違いよ。此度のことは良い機会であった。
怪しげな技を使い、忠誠も疑わしい一族を廃するには機会を逃さぬことだ。
だが、漁火はうまく使えば役に立つ。妹を押さえておけば、どうとでもなるだろう。まずは戸隠の鬼を討たせる。……具風は帰ったか。よし、漁火を連れてこい。
おう、来たか。よく戻ったな、漁火。
しかし、戻り過ぎではないか。のう? このまま里へ戻れると思うてはおらんだろうな。よいか、これは俺が言うのではない。おまえが鬼と通じておると噂する者がおるのだ。
違うと? ならば、証明してみせろ。
戸隠の鬼を討つまで戻ることは許さぬ。すぐに行って殺してこい。さもなくば、里の連中もただでは済まぬぞ。土蜘蛛を祖とする異能の里とは名ばかりかよ。
我らに飼われてきた恩を忘れたか。こうした時のための異能の技であろう。一族の端くれに加えてやったのは、その力ゆえなのだぞ。土蜘蛛の術など、その程度のものか?
次こそは必ずと、そう言うのだな。
いいだろう。最後の機会をやる。三日だ。それ以上は待たぬ。三日以内に戸隠の鬼を討ち、その生き肝を持ってこい。三日後のいま、この刻限までに。さあ、すぐに行け。
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