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「そ、それで!?」
膝の上に座った娘の風美は、目をキラキラさせて疾風を見上げた。
「それでどうなったの、お父さん!?お父さんがこうして大人になって生きてるんだから、神隠しはされなかったってことでしょ?」
「まあ、そうなるな。その時点で結果は見えちゃってるな」
南向きの窓の向こうに、そっと視線を投げる。この空の、ずっとずっと南。その方向に、離れて久しい故郷が存在している。神隠し、と呼ばれる存在がいなくなったあの村が。
「そもそもの話。嵐の正体は元々、念力が使えたせいで迫害されて死んだ人間だったんだ。独りぼっちが寂しくて、ずっと村をさまよってた。……で、たまたま自分を見ることができた子供の一人と山で遊んでいて、友達になったんだけど」
「けど?」
「その子が、運悪く……遊んでる途中で、沢に落ちて死んじゃったんだと。それを見ていた大人が、悪い噂を広めた。あの赤茶の髪の子と遊ぶと、村の子供が死ぬ。あいつは悪いあやかしなんじゃないかってな」
その結果、彼は誰とも遊んで貰えなくなってしまった。一人の寂しさに耐え兼ねた嵐は大人達への恨みもあり、どうしても友達が欲しかったこともあり――やがて本物の神隠しになってしまうのである。彼が思っていた通り、子供達は彼の“友達”の位置を互いに押しつけあい、大人達は我が子可愛さに押しつけるように子供たちに言って回った。やっぱり自分が思った通りに人間は醜くて、友達になってくれる奴なんか誰もいない――そう思ってますます、彼は悪戯を繰り返し、神隠しを続ける存在になってしまったのだそうだ。
勿論、そんな話を疾風が知ったのはずっと後になってからのことである。
あの時は。あの寂しい少年を救えるなら、神隠しに遭っても構わないと本気でそう思っていたのだ。
「俺があいつと本当の友達になって、一緒に向こうに行ったら。きっともう、あの村に神隠しは出なくなると思ったし、あいつも救われると思ったんだよな。そりゃ、母ちゃんは泣かせちゃうけどさ、その時の俺にとってはそれ以外に選択肢なんかなかったんだ」
自分にできることがあるのに、それをしない。
誰かを見捨てて、誰かを踏みにじって生きることを、幼い疾風の正義感はけして良しとはしなかったのだ。
ゆえに。
『じゃあ、疾風はさあ。俺と一緒にあの世に行ってくれんのかよ』
あの夕焼けの山で、そう言った嵐にこう返したのだ。
『いいぜ。そしたらお前も信じてくれるよな?俺が、お前の本当の友達だって』
ああ、あの時の嵐の顔は、一生忘れられそうにない。
「お父さんかっこいいー!」
小さな娘は、手をぱちぱちさせながら言った。
「それで、その嵐くんはどうなったの?もう村にはいないんでしょ?」
「んー」
村の外の人間の血が入ったからだろうか。どうやら、この子にはそういうものが見える素質が無いらしい。大きくなった後、どうなるかはわからないけれど。
もし見えるようになったら、その時は。
「さあ、どこにいるんだろうなあ?お前も見えるようになったら教えてやるよ」
笑いながら疾風は、窓の向こうに庭先に視線を投げるのだ。
ボールを片手に、遊びたくてうずうずしている、子供のままの彼の姿を見つけて。
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