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ボールを見つけ、たっちゃんの家に返しに行ったその日から――一週間ばかり。疾風は優先的に彼と遊んだ。嵐、と名付けたその少年は、どうにも自分以外の前に現れたくない様子だったからだ。それが彼の姿が見える人間が少なかったからなのか、あるいはそもそも認めた人間以外に見られたくなかったからなのかはわからない。
ただ。どうやら、他にも見える人間がいないわけではなかったらしい、というのは――彼と出会った一週間後、母に鬼の形相で呼び出された時に知ることになるのだった。
「疾風。貴方最近、赤茶の髪の、あやかしの男の子と遊んでるんですって?」
「へ?……それが、何か」
「誰かに代わらせなさい」
あんな、憎悪にも似た表情を浮かべる母の顔は初めて見た。
「こんな理不尽なことはないわ。貴方はこんなところで終わっていい人間じゃない。今からお母さんの言う通りにするのよ、いいわね?」
「一体どういうことだよ、母ちゃん。……なんで」
どうやら彼女は、何かに対して怒っているらしい。そして、それは自分が嵐と遊んだことに起因しているらしい。この時点で疾風に対して分かったことはそれだけだった。母が、自分を心配してそんなことを言っているらしいということも含めて。
「俺、あいつと、友達になっただけだぜ?」
動揺する疾風に、母はぽつぽつと、大人たちだけが知っている秘密を語ったのである。
それは、この村に古くから存在する“神隠し”の話だった。神隠し、という現象ではなく。神隠し、という名前のあやかしのことなのだという。彼はいつも、赤茶の髪の、小学生くらいの少年の姿で現れる。そして一緒に遊んで友達になった子供を、あの世へと浚って行ってしまうのだそうだ。浚われてしまった子は、山に行って二度と戻って来ないか、運が良くても死体となって見つかる結果になるのだという。
ゆえに、彼と遊んではいけないし、どうしても遊んでしまったら別の誰かに生贄を代わらせなければいけないのだそうだ。彼が子供を浚うとされる、お盆の時期が来る前に。
「貴方があの子に出逢ったのは一週間くらい前?……その時期なら、貴方が“一人目”であるはずがないわね。うちの子を、うちの子を生贄にして助かろうとした馬鹿がいるなんて……!許せない、絶対許せないわ!」
「か、母ちゃん、それってどういう」
「貴方は、誰かに差し出されたのよ!自分の命が助かりたい誰かに!!」
母が怒っているのは、それだった。
遊んでしまった子供が助かる方法はただ一つ。少年に会った時、彼にこう告げることなのだという。
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