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『僕は君とは友達になれないので、●●のところへ行ってあげてください』
この●●、の部分に自分が知っている村の子供の名前が入る。
つまり母は、神隠しと遊んでしまった子供の誰かが助かりたいがために、“疾風のところへ行け”と命じたのではないかと思っているのだ。
「もうお盆まで、時間がないわ。次に会った時に、誰でもいいから代わらせなさい。貴方が消える必要なんかない、貴方より役に立たない子なんかいくらでもいるんだから、ね!?」
「……か、母ちゃん」
彼女が、何を言いたいのかは理解できる。自分をどうにかして助けたいのだろうということも。
しかし疾風は――この時、そんな彼女に失望していたのだ。否、彼女だけではない。この村そのものに、と言えばいいだろうか。何故なら。
「……そうやって押しつけていったら、堂々巡りだろ」
疾風には、なんとなく分かってしまっていた。自分はこの神隠しの存在を、たった今まで知らなかった。ならば他の子供達も同じではないだろうか。親に突然知らされて、パニックになったまま命令されて、とっさに“疾風の所に行け”と命じてしまっただけではないのか。疾風のことが憎かったからとか、そういうことではなくて。
そもそも、命が助かりたいと思うのは誰だって同じことだ。生贄にされたと、憎むのはお門違いではなかろうか。
「そっか。……だから嵐のやつ、あんな寂しそうだったんだ。そりゃそうだよな。みんなが自分と友達になりたがらないんだから。友達になる、ってことを、みんなが押しつけて回るんだから。……本当の友達って、そういうもんじゃねえはずなのに」
「疾風……?」
「母ちゃん。母ちゃんの気持ちはわかるよ。でも、間違ってると思う。あいつは悪い奴なんかじゃない。友達を、神隠ししないと友達にできないって本当に思ってるんだとしたらそれは……そう思わせちまったの、村の人間なんじゃねえのかな。人間の、そういう醜いところを見てたら、そりゃあいつだって嫌になっても仕方ないんじゃねえかな」
母が、はっとしたような顔になる。そんな彼女の手をゆっくりと肩から外し、疾風は言った。
「俺までそうやって、他の誰かに代わらせたら。そいつも……あいつも。永遠に救われないまんまだ。俺は、そんなの絶対おかしいと思う」
彼女の、自分を呼ぶ声が聞こえた。それでも疾風は振り返らず、家を飛び出したのである。逢魔ヶ時の、彼と出会った林のある方へ。
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