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次に私が黒い少年に出会ったのは幼稚園バスの中のことだった。私の幼稚園バスの中での指定席は一番端の窓際。隣には誰もこない。パーソナルスペースへの侵入を許さない私が泣くからだ。隣に座ると私に泣かれて困るし「ギャン泣きするあいつ嫌い」と誰も私の隣に座ろうとはしないと言った感じだろうか。
いつかも覚えてないある日のこと、私の隣に「誰か」が座ってきた。黒い少年だった。膝小僧の怪我より一週間後の話である。
〈また、あったね〉
「えっと…… え、え、え」
〈おひざの怪我はなおった?〉
私は黒い少年に傷もすっかり消えた膝小僧を見せつけた。遥か昔の出来事故に傷の程度は覚えてないが、幼稚園児の自然治癒能力を考えれば傷はもう欠片も残っていなかっただろう。今のいい年した年齢の自然治癒能力ともなれば、一ヶ月経過しても膝小僧に人面瘡のような傷口がシミュラクラ現象を起こした顔が浮かんでいるに違いない。全く…… 歳はとりたくないものである。
「うん、なおったよ」
〈よかったね〉
幼稚園バスが私の自宅前の道を進む、ちなみに私の家は幼稚園から一番遠く、私が一番最後に降ろされる園児である。つまり、幼稚園バスに残る最後の一人なのだ。
一週間ぶりの再会と言うこともあり、私は黒い少年と話をしてみることにした。
「ねえ、きみだれ? 先生にきみのこと言って、さがしたんだけど、ずっといなかったよ」
〈しらない、わかんない〉
今にしてみれば会話が繋がらないやりとりである。幼稚園児であった私はこの奇妙さにも気が付かずに会話を進めてしまった。
「きみ、ハワイにあそびにいって帰ってきたこ? それともがいこくのこ?」
黒い少年は首を横に振った。どちらも違うと否定した。
〈しらない、わかんない〉
「おうち、どこ? ぼく、おうち遠いからバスでいつもさいごまで一人なんだ」
〈しらない、わかんない〉
「わかんないばっかりだね。くみはどこ? ぼく、つばめ組」
私の通う幼稚園では組の名前が鳥の名前で統一されている。年少が「ひよこ組」「すずめ組」年中が「かなりあ組」「いんこ組」年長が「つばめ組」「ぺんぎん組」と、鳥縛りなのだが「ぺんぎん組」だけは浮いてるような気がすると今にしてみれば思う。それはさておき、黒い少年の組はと言うと……
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