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毎年夏になると、情緒的な小雨は一体どこに消えたんだろうかと思う。
去年は台風でお気に入りの傘が壊れてしまって、それ以来はビニール傘だ。
コンビニで500円。同じ物を持っている人が多いから、持ち手に青いストラップをつけている。
いまはその傘を片手に雨宿り中だ。会社からの帰り、駅の目の前で急な大雨に足止めされて憂うつな気分になっている。
本来なら雨も好きなのに、轟音のせいで嫌になる。雨だけではなくときに雷まで鳴っていて、皆どこか不安げな顔をしていた。
空気が重い。そんな中、私と同年齢ぐらいの女性が声をかけてきた。
「あれ、もしかして辻原さん?」
「そう、ですけど」
私は無遠慮な一言に戸惑いながら返した。ショートヘアでボーイッシュな印象。服装はズボンではあるものの私と同じようなオフィスカジュアルだった。
その爽やかさから警戒しないで済んでいるけど、この人が一体誰なのか分からない。
人違いで偶然同じ名字なんてことはないだろう。どこの誰なのか、訊くか訊かないか迷っている間に彼女が先に話し始めた。
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