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残っていたチャイラテを全部飲んだ後、外へ出た。
けど、そこに月島さんはいなかった。トイレにでも行っているのか、入り口の傘立てに月島さんの傘が置いてあるままだった。
中に戻ってトイレを確認したけど、そこには誰もいなかった。
用事でもできて帰ったのかもしれない。
何にしても一言ほしかった。連絡先を知らないから苦情も言えない。
もう帰ろうかと思いつつも、迷う。置いたままの傘も気になって、すぐにはその場を動けない。
そんな私の周りでは数人が空を見上げていた。
何があったのかと同じ方向を見ると、空に薄く虹がかかっていた。月島さんがこれを見ずに帰ったのなら惜しい。
でも何も言わずに帰るのは反則だ。虹も消えてきたことだし、もう月島さんのことは考えないで帰ろう。置いたままの傘のことも気にしない。
そうして足を踏み出したところで、横から声をかけられた。
「さっきの見てた?」
月島さんだった。
「虹のこと?」
「そう。私は向こうで見てたんだけど」
「気付かなかった」人よりも空に目を向けていた。「というか、いなくなって焦ったんだけど」
「ごめん。あっちのほうが見やすかったから」
苦情半分に言うと子どもみたいに素直な一言が返ってきた。元々本気で怒る気はなかったけど、その欠片まで消えて行った。「もう帰る?」と訊かれて「うん」と返す。
「またね」
「また。っていうか、辻ちゃんも駅だったよね」
「あ、」
すっかり忘れていた。
「何駅?」
「都田」
「なら路線違うね」
駅まで一緒に行こうと言う。
「うん。それは良いけど、傘店に置いたままだよ」
「え?」
「入り口」
そこを見てようやく気付いたらしい。「本当だ」と軽く驚いていた。
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