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考えてみれば、人を殺すのは初めてだ。
体を無理矢理動かして二人の男の息の根を止め、幾つかの肉片を口に押し込んだところで、僕はふとそんなことを考えた。
両親は結局なんとかフィレナによって助かったし、きっと今頃は僕のことも忘れて元気に生きてくれているだろう。
本当は人は殺したくなかったのだけど仕方ない。フィレナの方がずっと大事だしフィレナにこれ以上迷惑はかけたくない。
「食べないで!」
そう思っていたのに、フィレナはきっと僕の成長に安心してくれると思ったのに、想像とは裏腹にフィレナは悲痛な声で僕には訴えてきた。
「でも証拠を残したらバレちゃうかもしれない。食べたら誰も気づかないよ。大丈夫、量は多いけど食べ切ってみせるから」
僕は口に運ぶ手を止めない。早くしないと暗くなってしまうし、獣も寄って来るかもしれない。
早くしないと。僕が他に人に人喰いだとバレる前に。僕がこれ以上人を殺す前に。
「違うの!」
「……なにが違うの、フィレナ」
「違う、違う、違う! お願い。食べないで!」
フィレナは泣きそうな顔をしていた。僕が手を止めないのがとても非道な行いのような気がした。
「私以外、食べないで」
それでも手を止めない僕はきっと本当に酷い人だ。でもこうするしかないのだ。
「一人は嫌なの」
消え入りそうなフィレナの声が耳に届く。
「私を一人にしないで」
「しないよ」
その言葉は聞き流せなかった。一人になんてしない。フィレナが一緒に来てと言ったんじゃないか。僕から離れるなんておかしな話だろう。
「フィレナを一人になんてしない」
僕の言葉を信じられないものを見る目でフィレナが見ていた。
自分の首元にこびりついた血を手でおざなりに拭うと、いつの間にかナイフで切られていたはずの傷口が早くも塞がっていて、僕は首を傾げた。
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