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二人分の肉を全て食べ終えると、僕はもう満足に動くことも出来なかった。空になった荷台に引き返し、僕らは夜を明かすことにした。
「昔、私と同じ不死の人に出会ったことがあるの」
隣に座るフィレナがぽつりと呟いた。
「私は嬉しかったわ。一緒に長い長い人生を生きていけると思ったから」
「……そっか」
「でもね、その人は死に方を探してる人だった。そのために魔法を覚えたとも言っていたわ。私に魔法を教えてくれたのはその人。魔法でも自分を殺せなかったそうよ」
フィレナはひどく遠くを見る目をしていた。小さく吐き出された息が寂しく消える。
「どうして死にたいのって聞いたの。死ぬのは怖いことでしょうって。そしたら生きてる方が苦しくて怖いって言うの。私にはちっとも分からなかった」
フィレナは生きていたい人なのだろう。僕にはやっぱりまだ分からないけど。生きているのは楽しいこともあるけど、それ以上に辛いことも多い。
もちろんフィレナが僕に生きろと言う限り生きるつもりはあるけど。
「その人とは別れたから、今頃どうしてるのかは知らない。上手く死ぬ方法を見つけたのかもしれないし、まだ生きてるかも。私には関係ないことだわ。でもね、私も途方もなく怖くなったの」
「生きることが?」
「いいえ、一人で生きることが。私はこの先一生一人なのかと思ったら堪らなく怖かった。怖くて怖くて、でもそれ以上に死ぬことが怖くて、一緒に生きる人が欲しいと思った」
フィレナがふっと優しく微笑んで僕の方を見た。
「そんな時に出会ったのがあなたよ、ユーラント」
月明かりがフィレナの金色の髪をより一層煌めかしていた。
「あなたは死にたがってたけど、それは生きることを知らないからだと思ったの。あなたはずっとあそこにいたから」
「でも、僕もいつかは死ぬよ」
「あなたは人喰いだから、もしかしたら私の肉を食べれば私と同じようになるかもしれないと思ったの。成功するかは分からないけど、もしかしたらあなたも私と同じ不死になれるかもしれないって」
夢を見るような瞳でフィレナは僕を見ている。
「そしたら私、もう一人じゃないんだって」
その掠れた声に首を振ることなんて出来るはずもない。
「一人になんてしないよ」
「ほんと?」
「僕は出来ることなら、一生君だけを食べて生きていきたいから」
それに、と僕は自分の首元を指差して見せた。フィレナは一度不思議そうに首を傾げ、それから歓喜の表情に変わる。
いつか僕らは同じものになるのかもしれないという予感と喜びがそこにはあった。
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