第一話 告白の行方

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第一話 告白の行方

「またフォロワー増えてんじゃん」 「あーね」 優等生の女子がネットで大人気の夢小説書いてるとか、 「俺が公園にいた他校のやつ殴るフリしたらすぐ逃げやがったの」 「ウケる」 人気者の男子が本当は家で姉にパシリみたいにされてるとか、 「この間インスタで夜に写真あげたら先生にバレたんだけど」 「最悪じゃーん」 可愛くて男子にモテてる女子が実は深夜に友達と遊んで先生に怒られてるとか、 「アイツ、付き合ってるらしいぜ」 「ハアーッ!?マジかよ」 何言ってんのかわかんない問題児に彼女がいたりとか、 大人に裏表があるように子供にだって裏表くらいあるのではないか、と俺は思う。 俺は、普通の中2男子だがものすごく耳がいい。地獄耳と言われている。 この耳のせいでよく周りの会話が聞こえてくる。 ふと、こちらに足音が耳についた。 「英検2級〜、聞いてくれよォ」 「何だよ、泣き真似して」 足音は、友達の東康介のものだった。 康介は俺が許可していないあだ名を呼びながら足にすがりついてきた。 「俺、頑張ってラブレター書いたのにさぁ」 「ラブレターって……」 「おい、今引いただろ!」 別に康介がラブレターを書いたことを否定したい訳ではない。 ただ、驚いているだけだ。 康介は勉強がなかなか壊滅的な脳筋のため、手紙といまいち繋がらなかった。 直球勝負しか出来ないと思ってたし。 「ラブレター送った相手って石黒さんだろ」 「流すなよ!まあ、いいや。そうだよ、石黒さん」 クラスメイトの石黒莉々さんは、康介の想い人。 読者モデルをしているだけに可愛らしい外見をしているが、性格はまあ、不可寄りの可もなく不可もなくみたいな感じだ。 そんな彼女に康介は一目惚れをし、メッセージアプリでの告白をして振られたが諦めていなかったらしい。 まあ、好みは人によって違くていいだろう。 「俺が書いたラブレターを石黒さんがキモイって。周りの女子も引いててラブレター書いた人探し始めてんの!」 「お前、名前書かなかったのか?」 「いいじゃん、別に!」 だから朝から女子たちが騒がしいのか。 「迷探偵登場!」とか言ってる女子もいたっけな。 あれはラブレターの送り主を探してたのか。 「てか、探されてるぞ。回りくどいことしてないでさっさと面と向かって告白すればいいだろ」 「んな正論言うなよ〜」 おそらくコイツは方法ではなく自分の話を聞いて欲しいだけだろう。 そうなってくると、これは俺の専門ではない。 俺はあくまでも方法を言っているだけだ。 「結貴、康介」 「天川、どうした?」 声をかけられて隣の席を見れば、文庫本から顔をあげて天川がこちらを見ていた。 天川冬音。 優等生という部類に入る彼女は、耳の下で黒髪をサイドテールにしていて凛とした雰囲気をまとっている。 顔立ちは整っているだろう。泣きぼくろが羨ましいと女子たちが言っていた。 「いや、莉々ちゃんにラブレター送ったの東だったんだなと思って」 「なっ!」 「こんだけお前がでけぇ声で喋ってりゃそうなるだろ」 俺の言葉に康介がわざとらしく口笛を吹き出す。 吹けてないけどな。 「いや、別に誰にも言わないけど。莉々ちゃんがちょっと前から東避けてんじゃん?」 「そうだな」 「え!?そうなん!?」 避けられてるって気づいてなかったのか? 思わず天川と顔を見合わせる。 石黒さんはかなりわかりやすく、なるべく話しかけられないようにしてたのに。 「おい、康介。お前がいると話が進まない」 「失礼だな、おい!」 「続けていいですかね?」 康介は続きが気になるのかジェスチャーで続けてくださいという謎のポーズをとっている。 俺も頷きながらいろいろうるさい康介を押さえ込んだ。 「多分ね、康介。莉々ちゃんがアンタ避けてんのは回りくどいアピールが逆効果になってるからなの。さっさと面と向かって告白した方がいいと思うよ。莉々ちゃんモテるからいろいろ他の人がいたりするかもしれないし、女子は誠心誠意で伝えられた方が嬉しいからね」 「天川……。これは、俺への」 「忠告だよ」 天川の話を康介は目をうるうるさせて聞いている。 確かに天川の話は的をえてるし、あながち間違ってはないだろう。 面と向かって告白しろ、という点では俺と一緒だ。 しかしながら、天川の物言いはどこか含みがあった。 知らぬが仏という言葉がよく似合う康介なので知らなくともいいだろうが。 「ありがとう、天川!」 「別にいいけど」 康介は俺が押さえ込んでいた手を振りほどくと、勢いよく立ち上がった。 手がジンジンと痛む。 コイツ、さっきまで落ち込んでたくせに……! 「俺、石黒さんに告白してくる!」 「いってらっしゃい」 「授業の始まる二分前には戻ってこいよ」 告白すると言い残すと、善は急げと言わんばかりに教室を出ていった。 嵐みたいなやつだな。 さて、康介がいなくなったところで俺は天川の方に向き直った。 ここからが本題だ。 「天川、これは本当に康介のために言ったのか?」 「そうだけど」 口角を微かにあげて微笑を浮かべているこの表情が天川を男子たちがミステリアスと言う所以なのだろう。 「俺には含みがあるようにしか聞こえなかったけどな」 「へえ?ちょっと声のボリュー厶おとそうか」 そう言われた俺は小声で天川に向かって告げる。 「天川は康介が石黒さんと付き合えると思って忠告をしたのか?」 「まさか。莉々ちゃんはメンクイでイケメンの彼氏しかいないもの」 「彼氏”しか”?それは複数形か?」 「どうでしょう?」 これは肯定だ。 つまり、石黒さんは彼氏が複数人いることになる。 「それなのに康介を行かせたのか?」 「私は忠告したじゃない。他の人がいたりするかもしれないって。あと、モテるからいろいろあるって」 「成程」 「でも、康介の結果次第でもある」 含みがあったのはこの部分か。 あとは、なぜ天川がこんなことを言い出したのか。忠告をしたのか、だ。 「石黒さんと天川は割と仲良いよな?」 「んー、部活一緒だしね。でも、莉々ちゃんに不満がある子って結構いてさ。話聞いてガス抜きさせてあげてるんだけど、莉々ちゃん莉々ちゃんうるさくて」 「要は康介をネタにメッセージアプリで告白してくる奴がいる自慢とかに関する愚痴を聞くのが大変だと?」 「わかってんじゃん」 天川は俺の言葉に笑みを深める。 ……ドンマイ、康介。 「まあ、アイツが面と向かって告白したらそういう自慢できなくなるじゃん?告白された自慢は聞く羽目になるかもしれないけど、康介を振る時にボロが出ると思うんだよね」 「仕組んだのか?」 「いーや?あれは莉々ちゃんの自業自得」 「……石黒さんが複数人と付き合ってることに関してボロをだすようにした」 「私じゃなくて仲良しグループの子たちが」 天川は大きなため息をついた。 思わずといった感じだ。 「今頃、その子たちがボロが出るように頑張ってるんじゃない?私はあくまでも利用される康介を不憫に思っただけだもの」 「愚痴聞くのが嫌な割に鋭ければ気づく言い回しだったもんな」 「じゃあ、私は様子見てくるから結貴、康介慰めてあげてね」 結局振られる前提じゃねえか。 教室から出ようとするもクラスメイトたちから呼ばれる天川を見て笑いそうになる。 何だかんだで人のこと考えてるからか人気者だもんな、アイツ。 ……一応、天川は康介に選択肢つくってたわけだしな。
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