第二話 勉強しましょう

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第二話 勉強しましょう

「結貴ーーッ、助けてくれ!」 「却下」 告白騒動からしばらくたち、アイツは今日も元気に昼休みの教室で騒いでいる。 康介が石黒さんのことを諦めたかは知らないが、天川に言われたように慰める必要もなさそうで何よりだ。 戻ってくる時から振られた割には元気そうだったけどな。 「酷くね!?まだ俺何も言ってねーよ!?」 「やかましい」 「理不尽!」 ギャーギャーうるさい康介を横目に俺は読んでいた小説を読むのを再開する。 すると、小説が取り上げられた。 「没収。俺の話聞かないと返さねえ」 「お前の方が理不尽だ、ろ!」 鉄槌を下し、小説を取り戻す。 これは借りてる物なので変に扱えない。 康介は自分の頭を抑えている。 「いってえ!お前、ボクシングかなんかやった方がいいんじゃないか?」 「お前は何をしに来た。話してさっさと戻れ」 康介は待ってましたと言わんばかりに俺をじーっと見てきた。 ……やらかした。 そして、気持ち悪い。鬱陶しい。 しかも、やけにキラキラした目でこちらを見てくる。 「結貴キュン」 「……キモイ」 「勉強教えて?」 絶対嫌だ。 聞こえなかったフリをして小説を読む。 毎回、テスト前にこうやってすがりついてくるが非常に迷惑だ。 真剣にやるならまだしも、やる気がないせいでいつも始まらない。 電話繋いで勉強してる奴らみたいに。 俺は今、何も聞いていない。 勉強教えてなんて頼まれてない。 コイツとは他人。赤の他人。 「いいだろぉ、100点の人ぉ。てか、この前天川に超丁寧に数学の解説してだろ!他の奴らにだって割と親切にやってんの知ってんだぞ!」 「お前、天川と自分の成績と授業態度比べてみろ」 「うっ」 康介は成績がどうこう以前にやる気がない。そして、そもそも小学校で躓いている。重症だ。 対して天川の成績は学年でもトップ10以内でそうなると基礎ではなく応用の話になってくる。つまり、文章題になれば説明は長くなるわけだ。 「じゃ、じゃあ、天川!」 「何?」 康介が隣の席にいた天川を呼ぶ。 天川は既に話の流れをわかっているのか嫌そうな顔をしている。 ああ、そうだ。天川も康介の被害にあってるうちの一人だった。 「俺に勉強教え……」 「冬音、委員会の資料持ってるか?」 「ナイスタイミング!柊!」 「は?」 だが、残念なことに康介の声は学級委員の男子の悪気なき声に遮られる。 天川はその登場に椅子から立ち上がった。 顔が今までになく輝いている。 「クソッ、このイケメンめ!おい、柊来るんじゃねえ!」 「は?」 「いいわよ。柊、サンキューね」 学級委員の男子、榊原は訳が分からいという顔をしている。 榊原柊。 クラスの学級委員で成績優秀、運動神経抜群な少女漫画にでも出てきそうな男子。 薄い茶髪に涼し気な目元、康介は「イケメン野郎」と呼んで彼に嫉妬している。 榊原、お前は正しい。 天川は榊原の腕を掴むと廊下の方へ逃げ出す。 「はい、資料。ちょっとこっち来て」 「お前口調迷子か?」 「私の口調はいつも迷子よ」 そんな会話をしながら2人は廊下へ出てしまった。 ……この展開は。 ジローっとこちらを見ている康介を無視し、立ち上がる。 俺は無関係、俺は無関係。 「結貴ぃ」 「あなた、誰ですか?」 「知らないフリかよ!なぁ、やっぱ女子ってイケメンが好きなのか?なんなんだよ、お前も柊もモテんのにどーして俺だけモテないんだよ!?」 日頃の行い。 口からそう出かけて言葉を飲み込む。 榊原はいいとして、俺はそこまで日頃の行いがいいかと言われれば微妙なとこだ。 「なんで今、イケメンの話になったんだよ……」 「だって、酷くない!? 柊が来た瞬間、天川は俺無視よ!?」 「それは榊原がイケメンどうこうじゃなくてお前に勉強教えたくなかっただけだろ」 「お前、知ってる?顔より性格とか言ってる奴だって結局顔なんだぜ。俺がその理由で何回振られたと思ってんの?」 ドスのきいた声で康介がこちらを睨んでくる。 コイツ、こういう時だけ無駄に迫力あるんだよな。 てか、話通じねえ。 「話戻すけど。お前、本当に勉強する気あんの?」 「ある!あります!」 なんか、コイツから逃げんのも面倒になってきた……。 「……わかったよ。数学からやるぞ」 しょうがなく俺は席に座る。 康介は俺の前に立ち、(地獄の)勉強がスタートした。 ーー 「お前ッ、ふざけてるのか!?」 休み時間もあと2分程に迫った時、俺は思わず口からその言葉が溢れ出た。 いや、ふざけてるとしか思えない。 そうでなきゃ再テストで30点なんか取らないだろ。 再テストだぞ!? 「いや、別にふざけてねーんだけど……」 「お前、なんのためにこんな将来使うのかわかんないような勉強俺らがやらされてると思ってんだ!? 受験や試験で落とすためだ。人数減らすためにやってんだよ。お前は選ぶ側じゃなくて選ばれる側の人間なんだ!」 「白熱してんじゃん」 戻ってきた天川が神妙そうな顔でそうつぶやく。 そして、机にのっている答案用紙を見て今度はうわぁという表情になった。 「再テストで30点。さすが康介」 「2人して貶すなよ!?」 「選ばれる側の人間」 「天川ぁ!」 そんなやり取りに俺はがくりと項垂れ、康介に勉強を教えるのは前途多難だと悟った。
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