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第三話 ブラック部活
「三木、部活行くぞ」
「ああ、今行く」
俺の通う中学、松橋中学は「この中学で運動部に入ると頭が悪くなる」と近所で噂されるくらい運動部が盛んだ。
部活は、陸上部、男子サッカー部、テニス部、女子バレー部、卓球部、男子バスケ部、女子バドミントン部、剣道部が運動部。
文化部は、吹奏楽部、合唱部、美術部。
バスケとかサッカーは男子のみ。逆もある。
と、運動部が盛んな割に選択肢はそんなに多いわけではない。
俺が入っているバスケ部は割と部員が多いが、年に一つか二つくらい学年で部員が二人しかいない部活があるし、男子テニス部は今夏でなくなる。
あと、吹奏楽は去年まで管弦楽だったが人数不足のため弦楽器がなくなって改名したらしい。
悲しい生徒数が減っているという現実。
「あ、三木くん」
「ん?」
声をかけられてハッとする。
振り返れば、吹奏楽部の女子たちがいた。
その表情は暗い。
「どうした?」
「あのさ、三木くんって確かピアノ弾けるよね?吹奏楽部に助っ人で入ったりとかって……できる?」
「悪い、バスケ部だしうちの学校部活掛け持ち禁止だから」
そう言えば、女子たちは慌てて明るい表情をつくった。
「だ、だよね!ごめん、変なこと言って」
「いや、なんかこっちも悪いな」
大変そうだなと、思う。
吹奏楽部の人数が足りないという話は聞いたことがあったからだ。
俺も部活行こうと鞄を背負う。
「今の吹部だよな。勧誘か?」
「ピアノ弾ける人探してるみたいだな」
榊原に聞かれ、俺はそうこたえる。
コイツも俺と同じくバスケ部だ。小学校からバスケをやってるらしい。
「へえ。ていうか、三木ってピアノ弾けるんだな」
「習ってたんだよ。お前は習い事とかやってたか?」
廊下に出て体育館までそんなことを話しながら歩く。
「やってた、水泳とサッカー。バスケとかサッカーよりも水泳の方が熱入ってたな」
意外だった。
水泳部……はないのか。
数年前に無くなったって聞いたことがある。
だから、バスケ部ってところだろう。
「じゃあ、泳ぐの上手いのか?」
「上手いかは分からないけど泳げるな。今も毎週土曜にやってるし。他は三年くらいだけど」
「サッカーやろうとかは思わなかったのか?」
俺がきくと、榊原は思案顔になった。
「……なんだろうな。理由は特にないな」
何となく、なのだろうか。
本人は今更なんでだったっけな……と考えている。
体育館に入ろうとすると、サッカーボールが転がってきた。
「おーい!結貴、ボールとってくれー!」
校庭のほうで康介が叫んでいるのが見えた。
アイツは確かサッカー部だったはず。
サッカー部の誰かがこちらにボールをとばしたのだろう。
俺が蹴れば、ボールは康介の足元におちた。
「サンキュー」
康介は大声でそう言うとドリブルをして行ってしまった。
「三木、上手いな」
「まあ、康介にサッカーの練習付き合わされたし」
気づけば多少は蹴れるようになっていた。
アイツは多少サッカー馬鹿なところがあるからか練習がかなりキツい。
これは自主練なのか?と疑問に思うほどには。
体育館に入ると、荷物を置いた奴らがワーワー騒いでいた。
「お、来た。三木ー、榊原ー」
「どうした?」
騒いでいるうちの一人が俺たちを呼ぶ。
その手には一枚の紙があった。
「今さ、全部活でブラック部活アンケートしてんの」
「ブラック部活アンケート?」
聞き慣れない言葉に榊原と顔を見合わせる。
ただ、何となく意味はわかる。
「そう。平日、休日休み無しだったりする部活のアンケート。あなたはこの部活をブラック部活だと思いますか?みたいな」
「誰が始めたんだ?」
「女バドの三年と男子サッカーの三年だってさ」
女バド、女子バドミントンについてはよくわからないが、男子サッカーの三年がこんなアンケートをしだした理由は何となくわかったような気がした。
俺は雑にアンケートにこたえながら、ため息をついた。
ーー
「三木、あのアンケートの元凶がわかったってどういうことだ?」
その日の下校中。
俺と榊原は校門を出てすぐの曲がり角にいた。
理由は、あのアンケートの元凶がわかったのと、そいつと約束してるから。
あとは、
「結貴、調べてきたわよ。あ、柊もいるのね」
「天川、急に悪いな」
「それを持ってるってことはまた何か探ってきたのか……」
メモ帳片手に現れたのは天川だった。
そのメモ帳を見て榊原は呆れたような顔をしている。
前から思ってたが、榊原と天川は親しいのだろうか。
お互い下の名前で呼んでるし、距離感も近めな気がする。
あまり突っ込んだりはしないが。
「バド部の一部の先輩からアンケートについて話を聞いたんだけれど、言い出したのはやっぱりサッカー部の方ね。だいたい二週間前くらいからで順番はあいうえお順。二、三年生対象」
「理由については?」
「裏付けされてる」
淡々とこたえる天川の情報は細かい。
さすが、うちの学年の情報屋。
一部の二年が恐れてるだけある。
「ほら、来たわよ」
天川の声に一際目立つ集団を見る。
パッと見は男子たちが騒いでるだけに見える、が。
「そーえば先輩、最近しょうもないアンケートやってるみたいじゃないですか」
一人の男子がそう言った途端、空気が凍った。
榊原が隣で驚いたような顔をしている。
「あれは、」
「最初は驚くわよねぇ」
「同感」
神妙な顔の俺とは裏腹にその男子は笑みを深め、先輩の方を見た。
先輩はもう青ざめている。
「あれがバレたら一年イジメてたのもバレちゃいますね」
「そ、それだけは!東!」
その男子、康介は懇願する先輩を一瞥して前を向いて歩き出す。
「だったらそんなアンケートさっさとやめろ」
いつも馬鹿なくせに本当にこういう時は無駄に圧がある。
おそらく、サッカー部の三年はコイツに脅されているのだろう。それで、周りに気づいてもらおうとこんなアンケートを始めた。回りくどいうえに後輩のことをイジメてたんだから同情の余地はないが、康介に脅されてるという点では不運だ。
「やっぱり、どんな人間でも裏はあるものね」
「アイツ、普段はあんなんだけど喧嘩強い上に無駄に正義感強くてさ。後輩イビル先輩たち従えてんの。サッカーも強いし、変に言えないんだろうな」
「裏に関しては冬音がどうこう言えることじゃないぞ」
そんなことを話していると、康介がこちらに走ってきた。
「悪い!遅くなった……あれ?榊原と天川もいんの?」
思わず三人で顔を見合わせて苦笑する。
「じゃあ、私は友達待たせてるから。結貴、これがアレだけどどうするかはアンタ次第だから」
天川は俺にメモの紙を一枚渡すと行ってしまった。
正直、康介にこれを言ってをどうこうするつもりだったが、それはアイツが既に片付けている。
まあ、天川の情報なんてレアだし貰っとくか。
「え、何があったの??」
康介は一人不思議そうな顔をして首を傾げていた。
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