第四話 スポフェス・練習編

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第四話 スポフェス・練習編

体育祭のかわりに今年はスポーツフェスティバル、略してスポフェスをやる。 スポフェスは、150メートル走、デカパン競走、玉入れ、綱引き、学年別リレー、シスタークラスリレー、部活対抗リレーを行う。 つまり、体育祭が簡略化されたのだ。 「俺の独壇場がぁ」 学活の授業でのスポフェスの話し合い中。 シスタークラスリレーで走る人員を決めているというのに康介は一人落ち込んでいた。 シスタークラスリレーは姉妹クラス、つまり一年一組と二年一組のようなクラスがするリレーだ。 ちなみに、部活対抗リレーとの掛け持ちは禁止されている。 「そんな落ち込むなよ。シスタークラスリレー、走るんだろ?」 どんなに馬鹿でも康介の足は速い。 短距離も長距離も学年一位なのだから。 「でもさ、物足りなくない?」 「すぐ調子になるからそのくらいでいいのよ」 「酷くね!?」 ボソリとつぶやく天川に康介が声を上げる。 天川もクラスで男子二人、女子二人のシスタークラスリレーを走るのだから当然足が速い。 こちらは頭もいいが。 「まあ、男子短距離激戦区の三組で選ばれてるんだから目立つでしょうけど」 そんな小さな声は地獄耳の俺にしか聞こえなかった。 ふと黒板を見ると走る人が決まったらしく、榊原が司会進行を行っている。 「シスタークラスリレーで走るのは、東くん、山浦くん、天川さん、大宮さんに決まりました」 パチパチパチと拍手があがり、それと同時にヤジも飛んでくる。 「誰も東が走るとこなんて見たがってねえよ」 「どうせ女子が見たがってんのはイケメンですもんねー!」 「アンタたちうるさい。女子が見たがってんのは冬音ちゃんと大宮ちゃんなのよ」 ワーワー騒ぐクラスメイトを榊原が「静かにしろ」の一言で黙らせる。 コイツのこういうところ、本当にすごいと思う。 「次は全員参加の学年別リレーの走順を決めます。男女別に集まって決めてください」 その指示にしたがい、俺は立ち上がった。 ーー 「結貴!やるぞーーーーっ!」 「お前はそのいつになくあるやる気を半分くらい勉強にも使えないのか?」 その週の土曜日。 俺は朝っぱらから公園にいた。 公園にある時計の針は9時半をさしている。 そして、珍しいメンバーも揃っていた。 「東くん、よろしく」 「東、嫌だけどうちはやるぞ」 同じクラスの富里と佐山だ。 富里は美術部でふくよかな体型の明るい性格。佐山はバドミントン部で授業中は暗めだが、休み時間はミーハーな印象をうける。 この二人がクラスで一番短距離が遅いらしく、康介が無理矢理練習がなんちゃらとか言い出したのだ。 部活がないとはいえ、土曜日の9時半から女子二人を呼び出すのはどうかと思うけどな。 つか、なんで俺まで呼ばれてんだよ……! 「おっし、とりあえず俺と競走してどんなもんか見ないとな。結貴、ストップウォッチ」 康介は俺にストップウォッチを投げ、スタートラインの線とゴールラインの線を引いた。 「じゃあ、富里と佐山はそこから走って!結貴が合図だすから」 お前が出せよ。 絶対走りたいだけだな、コイツ。 嫌々ながらに「よーい、どんっ」と合図を出せば、康介は風のようにゴールまで走り抜けた。 コイツ、足だけは速いよな。 それから遅れて佐山、次に富里がゴールした。 「康介が七秒、佐山が十一秒、富里が十二秒」 「うーん、そうだな」 康介は珍しく考え込んだあと、ニンマリと笑った。 これは、ヤバい時のやつだ。 佐山と富里も何かを察したのか後ずさっている。 「今日は徹底的に走り込むぞお!」 「お、おう?」 富里の弱弱しい声が空に吸い込まれた。 「まずはホーム改善だ。腕を大きく振って、とりあえず走る!」 「お前、途中から説明になってないんだよ!」 ポカンッと軽く叩くと康介が口笛を吹いた。 コイツ、説明出来ないな。 「BL尊い……」 「あ、ざやまに変なスイッチ入ってる」 コソコソと話す(いや、これは会話なのか?)佐山と富里をパンパンと手を叩いて静かにさせる。 「とりあえず、コイツが言った大きく腕を振るここと、着地をつま先にしてみたらいいと思うぞ」 「なんでつま先なん?」 「つま先で蹴ると力が加わるからだ。多分。詳しいことは知らないけど」 「説得力なさすぎない?」 そうして、スマホで調べながらの練習が始まるのであった。
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