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「女子たちは楽しそうだな」
「楽しそうというか、天川がひたすら迷惑そうにしてるだけじゃないか?」
「大丈夫だろ、あれでもそこそこ楽しんでるぞ」
ショッピングモール1階のスーパー。
天川が買い物かごに食品を入れるたびに何かと邪魔する女子二人を見て俺たちはそんな会話を繰り広げていた。
あの三人は漫才コンビか何かだろうか。
「なんかさー、お前のこと幼稚園ぶりに見た時意外だったわ」
「そうか?」
康介の言葉に榊原が少し意外そうな顔をする。
俺は幼稚園が違うため黙って聞くことに徹することにした。
「なんて言うんだろ。柔らかくなったっつーの?昔はもっと冷徹みたいな感じだった気がするんだよな」
「あの頃か。あー、そういえばちょっといろいろあった頃で情緒不安定だったからな。そんな風に思われてたのか」
ちょっといろいろ。
複雑そうなその顔にこれは深堀しない方がいいやつだなと察する。
康介はその後、意を決したように口を開いた。
「あのさ、柊。年長の時にそのー、俺がお前の……その」
口篭る康介に向かって榊原は穏やかに笑う。
「昔のことだし気にしてないし、俺も態度悪かったからな。構わない」
「そうか……。ありがとな」
何なのだろうか。
幼稚園時代のこの二人がすごく気になる。
天川にでも後で聞くか。
そんなことを考えていると、富里が俺たちの前に立った。
「男子たち、この後どうする?どっか寄りたいところとかってある?」
「俺クレーンゲームやりたい」
康介が素直にこたえれば、富里が「ゲーセンね、OK」と嬉しそうに言う。
富里もゲーセン行きたいんだろうな。
マジで最初の目的どこ行った?
会計を終えて、俺たちはゲーセンに行くことになった。
「それ持つから」
「大丈夫」
「ほら」
「……お願いします」
榊原が天川に代わってエコバッグを持つ。
天川、折れたな。
何気に押しに弱いような気がする。
「見て、正美ちゃん!」
「あ、あれは……!」
「見ろ、あっちにあれが!」
「元気だな、アイツら」
騒ぐ三人(康介、富里、佐山)を横目に近くにあったベンチに座る。
「何気に康介と正美ちゃんとかナイスコンビだったりするからなぁ」
天川がどこかしみじみと言う。
榊原は暴走しかける康介の首根っこを掴んでいる。
同級生というか、完全に騒ぐ子供を止める父親みたいだな。
あ、そうだ。
さっきのやつきいてみよう。
「天川。幼稚園の時に榊原と康介って何があったんだ?」
「え?」
天川は立ったまま腕を組んだ。
その表情はどこか哀愁が漂っている。
「それは、柊の家のほう?それとも康介がやらかしたほう?」
「康介がやらかしたほう」
榊原のやつは天川のトーンが重そうだったので康介のほうを選ぶ。
というか、多分そっちだな。
俺が聞きたかったの。
「ああ、こっちか。これは康介の黒歴……」
「結貴と天川もこっち来いよ!」
黒歴史。
おそらく天川がそう言おうとしたところで康介の声に掻き消された。
狙ったかのようなタイミングだ。
「しょうがないな、また今度ね」
天川は苦笑いしながら康介のほうを見て言った。
タイミング良すぎだろ、ホント。
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