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ハルスが痺れを切らし宮殿を抜け出した。
どしゃ降りのなか、だ。
それとほぼ同時刻、ハルメスは
川沿いの家が流された。と聞き駆け出していた。
ハルスがバイト先のパン屋についた頃には、ハルメスはいなくなっていた。
「お、坊主この雨のなか来たのか?あの子なら川沿いに向かったよ。この雨だから晴れたらにしなって言ったんだが......」
その言葉を聞き、ハルスは飛び出した。
どろどろの地面を必死に蹴り、川沿いに向かった。
やっとの思いでついたハルスの目の前には、濁流があった。
堤防を破壊し、家など跡形も無くなっていた。
「......っ!ハルメス!ハルメス!!返事してくれ!ハルメス!!!」
叫び続けた。
もし、この濁流に流されていたらーー。
最悪な事態が頭に流れる。
どこからか、聞き覚えのある声が聞こえてきて
ハルスは後ろを向いた。
「...ハルス?...ハルスっ!無事なのですか?」
そこには、愛おしいハルメスの姿が。
全身びしょ濡れで、少し震えている。
「こんなに濡れて...寒いだろ?屋根の下に入ろう。」
ハルスはハルメスの肩を抱いて近くにあった店の軒下に入った。
「わ、私、ハルスが流されてしまったと...思って...」
「泣かないでくれ...ほら、俺はここにいる。大丈夫だ。」
お互いの温度がわかる。
服はずぶ濡れ、靴も、髪型だって崩れている。
だが、二人にとってはそんなのどうでも良かった。
お互いが無事ならそれで。
しばらく抱き締めあった後、ハルスが切り出した。
顔を赤くして、目をキョロキョロさせて。
「...ハルメス、その...け、っこんしてくれないか?」
「...え」
「俺は君に惹かれて、気づいたら慣れない買い物もして、宮殿から抜け出してた。君に会いたかったんだ。」
「...あ、う...」
「...あと、嘘ついてたんだ。川沿いに住んでいるって伝えたけど、本当はリチャード宮殿に住んでるんだ。」
「り、リチャード宮殿?!!え、あ、王子ですか?あ、申し訳ありま」
「謝んないで。言ったとおり、俺は君が好きなんだよ。......俺と結婚してください。」
真っ直ぐな目でハルメスを見つめる。
ハルスの目にはもう何も写っていたかった。
継承者の事も、王家の事も...何もかも
目の前にいるハルメスと一緒になれればそれで良かったのだ。
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