虹の向こうに君がいる

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ざあっと、湿った風が吹き抜けた。空を見上げると、やけに重苦しい雲が頭上にあった。優菜はじっとりとまとわりつく空気を払うように、ポニーテールの首を振った。 ピピー。 監督の吹くホイッスルが聞こえた。最後の一本、100Mを全力で走る。白いラインを越えて、優菜はこめかみを伝った汗を腕で拭った。 「集合!」 監督の声が響き渡る。部員は一斉に監督の周りに集まった。 「えー、明日から地区予選が始まる。気持ちを引き締めて、最高の結果を出せるようにコンディションを整えておくこと。朝の集合は八時。遅れることのないように。以上、解散!」。 その号令と共に、監督の周りに出来ていた部員の輪がバラバラとばらけていく。各自持水分を補給し、汗を拭きながら部室に戻る。 がやがやと賑やかな部室。女子ばかりだから、気の置けない話も上る。 「明日、見に来る人、居る?」 「うちは家族が見たいって言ってた」 「もう、親なんて見に来て欲しくないわ~。お父さん、恥ずかしいったら……」 「そこへいくと、優菜はいいな~。梶山くんが見に来てくれるんでしょ?」 梶山というのは、優菜の幼馴染みの梶山尚人のことだ。優菜と違って男でありながら家庭部に所属している、ちょっとひ弱な幼馴染み。何故か女子に人気がある。その理由が、優菜には全く分からなかった。 「尚人も恥ずかしいから見に来て欲しくないな……。だって、絶対お弁当作ってくるんだもん……」 「美味しいからいいじゃない。食べないなら、また食べさせて」 「いいよ。私、バナナだけあれば良いから」 要らないと言ってもいつも作って持ってくる。それが恥ずかしくて、そのお弁当を友達にあげてしまうこともしばしばだった。 「じゃあ、それを期待して、私もゼリーだけ持ってくるね。ヨロシク!」 「了解~」 弁当を渡すことを約束して、着替え終わった優菜は部室を出る。グラウンドの端に作られた部室の建物から校舎を辿って校門に出るまでに昇降口の前を通る。優菜がまとわりつくような風の中、校舎に沿って歩いていると、昇降口から見計らったかのように尚人が出てきた。
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