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Ⅰ 弟・了介①
コンコンコンコンコンコン……コンコンコンコンコンコン……。
玄関ドアの内側にいる住人の耳にどう響こうがおかまいなしの、
「こんだけ叩いてるんだからよ、とにかく開けろや」
と言いたげなノック音。
羽毛布団と毛布の下でうつ伏した日下部了介(くさかべりょうすけ)は、浅い眠りから目覚めた。
(……同業者だな、この叩き方は。もう仕事に励む時間かよ)
うつ伏したまま、オレンジ色の枕の上で顔を反転させ、パイプベッドの脇にあるカラーボックスの上に目をやった。目覚まし時計の銀色のベルが、ガラス窓越しに冬の黄色い西日を反射していて、眩い。時計の針は夕刊配達の真っ只中の時間、四時半をさそうとしていた。了介は、今度は裸の痩身長躯を反転させ、後ろ頭を枕の上に乗せた。
(記念すべき第一回東京マラソンという名の大宴会も、もうお開きだな……って、そりゃ昨日の昼間の話か)
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