第1話

1/5
前へ
/14ページ
次へ

第1話

4月になって四日が経った今日、僕は入学式のため、学校に足を運ぶ。 前髪をのばし、マスクをして、眼鏡をつける。 顔が見えないようにした僕は、まだ軽い鞄を持つ。 僕の名前は 逢坂 仁(あいさか じん)。 高校の入学式のために、偏差値が少し低めの(ほまれ)高校に向かって歩く。 僕が顔を隠す理由は、自分で言うのもあれだが、ものすごくからだ。 いわゆるイケメンだということ。 自分でも自惚れていると思う。 けど、なぜ顔を隠すのか。 それは中学の時、いじめられていたからだ。 この世界には顔や容姿を傷つける言葉が沢山ある。 そして、裏を持った言葉も直接伝わる言葉と同じくらい多くある。 もしかしたら、そっちの方が多いのかもしれない。 僕に響いたのはそっちだ。 僕は中学一年生のとき自分がゲイであることを理解した。 簡単な事だった。 今まで恋をしてこなかった僕が初めて恋をした相手が、前の席の男子生徒だったからだ。 実際、ゲイではないかもしれないと今では思う。 たまたま好きになった人が男だという、ただそれだけの事だった。 勿論最初は戸惑った。 それこそ初恋だったし、同性であることもあった。 だからこそ、初恋の相手を苦しめたくないと思い、この気持ちは封じていた。 それから友達として接していたが、いつの間にか親友にまでなっていた。 腹を割って、心の底からの本音を言える唯一無二の存在になっていた。 そんなこともあり、僕の恋心は消えるどころか勢いを増すばかり。 けれど、僕は親友になった彼を傷つけたくないと思い、気持ちを伝えることは無かった。 どれだけ心を許せる存在でも、恋心については伝えることはできなかった。 というか、したくなかった。 中学二年生になり、クラスも別々になった。 しかし、彼とは連絡をいくつも取り合う中になった。 日曜日や長期休暇も一緒に遊ぶ日が多くなった。 同じクラスの友達も何人かいたが、やはり、彼が一番の親友だった。 それから月日が流れ、中学校最後の年が始まった。 三年生になって、彼ともう一度同じクラスになった。 彼と僕は大喜び。 これからもずっと親友でいられると思っていた。 それなのに。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加