第1話

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月日はあっという間に流れ、僕が母の内職を手伝っている間に卒業式が終わっていた。 生活が不安定だった僕は、母の内職の手伝いをする日々を送っていた。 それもあって、勉強もしておらず、体力も大幅に減っていた。 太ると言うよりも、食べ物が喉を通らず、体型はそこまで変わらなかった。 僕でも入れる高校にいつの間にか入学が決まっていた。 そこでは寮生活だった。 母が僕の面倒をみきれなくなったのだろう。 そして、僕は今、高校の門の前にいる。 逢坂 仁 としてここにいる。 僕はクラス割りが書いてある紙を持って、教室を目ざした。 自分のネームプレートが置いてある席をみつけ、鞄を横にかける。 僕は席に着き、外を見る。 丁度窓側の席で、散った桜を見ていた。 ぼーっとしていると、後ろから肩を叩かれた。 ビクッ、としてしまった僕は慌てて後ろを向いた。 さーっと血の気が引いたような感覚になった僕は慌てて俯く。 そこには 「りょう 」が立っていた。 あの時から何も変わっていない、初恋の相手。 いきなり俯いた僕に気を使って、席の前に来たりょうは僕の目線まで屈む。 僕はバレていないか不安で仕方なかった。 りょうは話し始めた。 「後ろの席になった狩野って言うんだ。よろしく。」 そう言うと、後ろの席に戻っていった。 僕はほっとしていると、担任の先生らしき人が入ってきた。 そこから学校の説明や場所の説明があったが、後ろが気になりすぎて、全く入ってこなかった。 りょうは頭も運動神経も中の下の僕とは不釣り合いなほど、勉強もでき、体育では常にエースだった。 そんな彼が、なぜこの高校にいるのか不思議でしか無かった。 聞こうにも聞けない状況で相当苦しかった。 授業が終わり、配られた教材類を鞄に入れる。 丁度前に、先生の机があり、先生はそこで書類をまとめているようだった。 そこに、りょうが行くのが見えた。 丁度目の前だったので、話し声が丸聞こえだった。 「先生、この学年に、天野って男子生徒いませんか?」 僕はつい動きを止めてしまった。 それから自然なように手を動かす。 聞き耳を立てながら。 先生は悩むように答える。 「天野か?…さぁ、知らないな。確かいなかったと思うぞ。何かあるのか?」 りょうは首を横に振る。 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」 そう言うと、後ろの席に戻る。 僕はそそくさと教室から出る。 寮をめざして歩く。 寮に着いた僕は制服も脱がずにベッドにダイブした。 ぼふっと音がしたあと、しーんと静まり返った室内の中で、僕は無意味に体をよじっていた。 顔を上げ、顔を触ると熱くなっていたのがわかる。 鞄からスマホを取りだした。 買い換えた新しいスマホの中身は、母の連絡先しか入っていなかった。 クラスラインも、友達の電話先も、りょうの電話番号も何もかもなかった。 ほぼ初期設定のスマホを開く。 明るくなった画面をしばらく見つめた。 僕は立ち上がり、制服を脱いだ。
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