SandBox

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「どう思う?」 「どうって、もうちょっと年取ったら分かるんじゃないのかい。あの爺さんが何を思って選んだのか」 「そんなもんかねえ……」  言葉とは裏腹に納得のいかない彼の表情を見て、その理由を聞く。 「中身は跡形もなく消えるから良いけど、いや、外身の方も全自動で処理してくれるようになったから意味のない話ではあるんだ、」  十分に続く言葉を待つ。 「あーいいや、キリがねえ」 「何を言いたかったのか分かったと言うつもりも無いんだが、そいつはおそらく無意味な感情じゃないはずだ」 「……本当か?」 「ああ、俺は少なくともそう思う」  仮想現実が手の届く技術となって、ヒトに寄り添う入出力が一通り出揃った更に先の時間軸。箱型の仮想装置は一旦の完成を見た。『仮想箱』という意味の名前が付けられた装置は、オプションとして優に生死を含むまでに至る。 「望むなら夢の中のまま、ってことだな」  精神(意識)をデータ化する技術――その時代の単語の意味をそのまま取るならば『電脳化』となる――はこれらの技術とは別軸で、しかし当然のように並走する。死の定義は以前と比べて曖昧になり、身体はより軽いものになった。だからこそ運悪く倫理なるもののバランスが崩れるその時期に、仮想箱の中で自らのどちらともを終えることができるのだ。  箱は閉じている。  この時代にとりわけ厳しく規制されていた電子の海への逃避は、仮想箱の中での終わりを選んだ者にも当然許されていなかった。  当初娯楽目的に生み出されたはずの仮想箱にはどうしても気の晴れない何かが纏わり付いていた。そうなることは誰もが知っていたようだった。
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