一つの疑問

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一つの疑問

図書館を出たときには黄銅色の空が少しずつ夜の空に飲み込まれているかのように変化していた。   信号が背景より目立ちやすくなって、眩しいくらいになった時、彼女はもうさっきの悔しい表情はしていなかった。少しほころんでいるようにも見えた。 それを横目に僕はなぜか安心して、うれしくなった。そんな安心していると、ある疑問が脳から浮かび上がってきた。彼女のことにとらわれ過ぎていて、疑問に思わなかったことだ。 「なんで君は僕にバスであった時、またどこかでって言ったの」考えるよりも先に口にしていた。でも疑問だった。 彼女はもっと表情を豊かにして、僕が彼女に対する表情への疑問を確信に変えるくらい笑った。 「気づいちゃったんだ。内緒にしようと思ったんだけどね。やっぱりばれちゃったか」でも彼女の顔は確かに笑っているけど、目だけはどこか悲しみが透けていた。 「私、予報者なの」彼女が軽々と答える。 「え?」彼女の言葉と声の調子が合致せず、混乱したままおもわず唾をのんだから、少し苦しかった。 「生まれつき数時間先のことが分かるの」彼女の言葉や表情は自慢のようなものじゃなく、使命感があった。 「数時間先って、何もかも?」 「そう。本当はおじいちゃんと会う予定なんてなかった。だけど図書館にいるってことがバスを降りるとき予報ができて、これは絶好のチャンスだと思った」すでに僕の頭がオーバーヒートしていた。 「つまりおじいちゃんに置いて行かれたんじゃなくて、探してたってこと?」 「そう。だから同じ図書館にいる君を予報しちゃって、思わず、、」 頭の中がぐちゃぐちゃになる。いままでの事が溶けるみたいに。 「それじゃこの結果も分かっていたの。意味が分からないよ。そんなのさっぱり意味が分からないよ」僕は怖くなって咄嗟に走り出した。目の前にある横断歩道を突っ切って、この何処にも逃げれない空洞感をどうにか僕は、走って逃がしたかった。 僕はそのまま混乱した状態で家に帰った。
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