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君に渡すものがある
少しして彼女は家に用事があるらしく、図書館を出なくてはいけなかった。図書館の入り口を二人で出ると黄銅色の空があった。でも雨は降っていなかった。
別れる際に彼女はこう言った。「もう一つ話したいことがあって、君の名前を知りたいんだ」
「あー言ってなかったね。僕の名前は真島緋彦」「素敵ね」顔が少し赤かった。多分天気のせいじゃない。
また図書館で二人で会って借りた本を返す約束をした。1週間後に。
そこにあいつはやってきた。黄銅色に紛れながらきっと人の隙間に入るようにその数を増していき、僕を包む。
「本が濡れる」本を腕に抱え、僕は30分の道のりを走る。横断歩道を抜けてあの日に感じた空洞感が今は、高揚感に変わっている。きっとどこにでも行ける気がする。
まるで夕立がこの高揚を連れてきてくれたかのように、何処かに逃げる高揚感をどうしても僕は、走っても逃がしたくなかった。
僕は生まれて初めての満面の笑みを浮かべる。いやそう自覚した。
その瞬間身体がファっと浮き上がる。身体全身に光が走って猛烈な痛みを感じたけれど、どうしても忘れたくなかった。
彼女の笑った顔が浮かんだ。
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