不思議な女性

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不思議な女性

僕はバスの停留所のすぐ横に立っていた。もちろん帰るためだ。(たたむ)んだ傘を杖代わりにして、左手に抱いた。 僕のちょうど目先に、女性がいることに気が付いた。 容姿は白色のワンピースにブラウンの長髪で、風に何度も揺られるその髪が黄銅色に透けていた。まさに紅口白牙(こうこうはくが)であった。 凝視は亡状(ぼうじょう)と思い、咄嗟に目を逸らす。 そこにやってきた。肩に触れる冷たい感触、覚えのある音。それは徐々に音をましてやってくる。 「雨だ」 右手を大きく広げ確認するのと同時に、左手にあった傘を広げる。 僕は隣にいた女性を思い出し、確認する。すると肩に背負っていた鞄を胸のほうに持ってきては、鞄の中を一生懸命に広げて傘を探しているようだった。 何かの縁かわからないけど、僕には助ける選択しかなかった。 「大丈夫ですか。よかったら僕の傘に入りますか。バスもあと少しで来ると思いますし、その間だけですから」 彼女は傘を探すことをやめて振り返った。 「いいんですか」 「もちろん」 傘を彼女の方向に寄せる。 少しの沈黙が続き、ただ雨が地面とぶつかる音だけが響いた。 すると突然、彼女はあることを言い出した。 「今日はなんでこんなに雨が降るんでしょうか。私思うんです。この雲はきっと生きてるんじゃないかって、天気って本当に不思議だと思いませんか。誰も次が分からないなんて、まるで生き物のような感じがするんです」 突然の問いかけに僕は戸惑った。 「はー生き物ですか」困った顔をして苦笑いしながら返す。 天気を生き物だと考えたことがなかったために、一気に頭が真っ白になった。 「あ、バス来ましたね」助け船かのようにバスがやってくる。 雨は止んでいた。ただ黄銅色(おうどうしょく)の空はまだあった。
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