0人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
不思議な女性
僕はバスの停留所のすぐ横に立っていた。もちろん帰るためだ。畳んだ傘を杖代わりにして、左手に抱いた。
僕のちょうど目先に、女性がいることに気が付いた。
容姿は白色のワンピースにブラウンの長髪で、風に何度も揺られるその髪が黄銅色に透けていた。まさに紅口白牙であった。
凝視は亡状と思い、咄嗟に目を逸らす。
そこにあれはやってきた。肩に触れる冷たい感触、覚えのある音。それは徐々に音をましてやってくる。
「雨だ」
右手を大きく広げ確認するのと同時に、左手にあった傘を広げる。
僕は隣にいた女性を思い出し、確認する。すると肩に背負っていた鞄を胸のほうに持ってきては、鞄の中を一生懸命に広げて傘を探しているようだった。
何かの縁かわからないけど、僕には助ける選択しかなかった。
「大丈夫ですか。よかったら僕の傘に入りますか。バスもあと少しで来ると思いますし、その間だけですから」
彼女は傘を探すことをやめて振り返った。
「いいんですか」
「もちろん」
傘を彼女の方向に寄せる。
少しの沈黙が続き、ただ雨が地面とぶつかる音だけが響いた。
すると突然、彼女はあることを言い出した。
「今日はなんでこんなに雨が降るんでしょうか。私思うんです。この雲はきっと生きてるんじゃないかって、天気って本当に不思議だと思いませんか。誰も次が分からないなんて、まるで生き物のような感じがするんです」
突然の問いかけに僕は戸惑った。
「はー生き物ですか」困った顔をして苦笑いしながら返す。
天気を生き物だと考えたことがなかったために、一気に頭が真っ白になった。
「あ、バス来ましたね」助け船かのようにバスがやってくる。
雨は止んでいた。ただ黄銅色の空はまだあった。
最初のコメントを投稿しよう!