図書館の世界

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図書館の世界

坂を下ったところに図書館が目についた。これはちょうどいいと思い、走って図書館の中に入る。 透明な自動ドアをくぐり、図書館の鼠色のカーペットが敷き詰められたフロントらしき部屋に入室した。 紙の臭いと埃の臭い、古い知識の臭いが私の鼻の中で混ざりこんでは、色んなことを思い出させた。まるで学校の図書室にいる気分になる。新品の教科書、机に集まる友人との会話、記憶が次第に蘇る。 フロント受付の横に階段が見えた。階段に向かう際に、ベンチに座るチェック柄が目立つ老人に挨拶されたけれど、恥ずかしさで返せなかった。 ゆっくりと階段を上っていく。 階段を上った先には本の世界が360度広がっていた。そんな興奮を尻目に息切れし、疲れていることを忘れていた。少し座りたかった。 腰を下ろすところを探したが、常連たちは独自の城を築いていた。 これは困ったことになった。図書館を歩き回ったが一行に見つかる気配がない。 来た道を引き返して、家に30分かけて大雨の中帰ることになる。 何とも言えない何処にも移せない悲しみがただ一つの図書館に残ろうとしている。それはだけは嫌だった。 仕方なく階段を一歩ずつ、疲労困憊の顔でゆっくりと降りていく。一階、二階と降りていく。フロントについたときにふと挨拶をしてくれた老人にまた挨拶していこうと思った。 そしてちょうど階段付近のベンチに差し掛かった時、目をやるとそのベンチにあの老人はいなかった。これは残念に思ったが、一方で空席のベンチに腰を下ろせた自分に高揚していた。 少しの休憩で雨が上がると踏んで、本を片手に寸刻(すんこく)を窓の外を見ながら雨を上がるのを待っていた。 それから幾分かして止んでいるだろうと窓を見たが、まだ雨は降っていた。 諦めて僕は雨が止むまで数刻(すうこく)休んでいくことにした。
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