夕立

1/1
前へ
/13ページ
次へ

夕立

あれから1時間ほどが経った。僕は図書館の本棚にいた。天候・環境という場所分けされている、どの図書館にもあるコーナーだった。 ちょうど数分前に僕はベンチで口を開けて寝よう試みたが、前に会った彼女が天気はという言葉がどうも気になって、図書館に来たついでに調べてみようと思ったのである。 天候・環境の本棚は気難しく、タイトルを羅列してみてもさっぱりだった。しかし僕の盲目とした眼に、光を差すようにその一冊だけは確かに光っている。 「夕立」そう表紙には書かれていた。 いざ人差し指で1ページを開いてみると、紙を埋め尽くすほどの文章の波がその本には流れ込んでいた。まるで海の夕方の地平線を見ている気分だった。 読み進めていくと、ある一文が目に止まる。 「夕立は導くものなり、雨は棲むものなり。夕立は人知れず始まりを知り、夏を導く。人の挨拶のようにやってくる」 「導くもの?挨拶ってなんだ」さっぱり僕には理解できなかった。 著者は隅島(すみじま)容一郎(よういちろう)というらしく気象学の偉い人らしい。 図書館の部屋に黄銅色の光が差し込み始めると、部屋は瞬く間に金箔を貼った部屋に早変わりする。 でも本を読み始めてかなりの時間が過ぎていた。窓を見て当然黄銅色の光はまだ光っていて、ただ雨は止んでいるようだった。でもなぜかここにもう少しいようと思った。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加