プロローグ・モノローグ

1/1
前へ
/4ページ
次へ

プロローグ・モノローグ

 早く中学生になりたかった。中学生になって、制服を着て、自転車で学校に通いたかった。そうしたら、ちょっとくらいは大人になれるかなって、そう思ったから。  どれだけ背伸びしたって結局おれはまだまだガキで、母さんや先生や、周りの大人たちが難しい話を始めると、すぐについていけなくなってしまう。まだ早い、というか、分不相応ってやつなのかもしれないけれど、それでも何もわからないのは悔しかった。  早く大きくなって、この疎外感を投げ捨てたかったんだ。  小学校に入ってから、もう五年以上経っている。だけど、制服を着て歩く中学生の姿は、今のおれたちよりもずっと大人に見えた。あの服を着れば、おれもちょっとは大人になれるんだろうか。そんな思いが、おれの中でブレザーに対する憧憬を、ちょっとずつ大きく育てていった。  ……ああ、それと、もうひとつ。  ダサいって言うやつもいるけど、ウチの学区の中学校の制服デザインは、なかなか捨てたもんじゃないと思う。男子制服はかっこいいし、それに何より女子制服がかわいいのだ。  世間一般では微妙扱いなのかもしれないけれど、少なくともおれの目には、あのブレザーはめちゃくちゃかわいく見えた。女子の制服なんて、男子のおれには関係ないぜー! ……という顔を普段はしているおれだけど、実のところ一番興味があるのはそこだった。中学校の制服。ブレザーとスカート。ローファーを履いて、指定の学生鞄を提げたあいつは……きっと、もっとかわいくなるんじゃないかって。  つまるところ、幼馴染に対する下心だったのだ。自覚したのはつい最近だけど、おれはあいつに恋をしている。きっと、ずっと前から好きだった。たぶん、これからもそうだと思う。  同じ制服を着て、同じ鞄を持って、サドルの高さの違う自転車を並んで押しながら、同じ学校に通って。あいつはちょっとガキっぽいっていうか、色恋沙汰にはあんまり縁が無い感じだから、きっとおれは自分の想いを隠しながら、さっぱりとした青春を過ごすんだろう。  とかなんとか、まあ、シシュンキにありがちな妄想をするのが、最近はちょっと楽しくなってきていた。  ……そんな折に、本当に急に飛び込んできたのだ。あいつの、転校の話が。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加