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<4・ユウカイ。Ⅲ>
悩みに悩んだ末、結局教団に電話はかけてしまった。幹部の男は耕平が少女を捕まえたと知ると、それはそれで喜び“明日にでも迎えをよこします”と言った。何でもたまたま他の仕事で本部がバタついていおり、すぐに車を出すことができないのだという。
――くそっ……てめえの都合ばっかり押しつけやがって。その間にガキが逃げたらどうするんだ!
彼女は今日中に家に帰るつもりでいる。それは、彼女が由羅とかいう少女と交わしていた会話からも明らかだ。なんとしてでも引き留めなければいけない。眠らせるか、縛り上げるか。何か手段を講じなければいけないということだろうか。あまり手荒な真似はしたくはないのだが。
――俺の名前教えてねえのに、あの澪とかいうガキは知ってやがった。やっぱり特別な力とやらがある、と思って間違いねえのか?
嫌な予感がする。やはり、生贄にされると知っていて幼女が一人でついてくるのはおかしい。自分を止めたいと言いながら、言葉で軽く忠告するだけというのも引っかかる。それこそ、力ずくになったらどうしようもない相手ということは彼女とて分かっているはずだ。いくらそこそこ年が行っているとはいえ、いくらなんでも幼女を押さえこめないほど非力なつもりもないのである。
もし、耕平を強引にどうこうできる自信が彼女にあるとしたら。それこそ別に“保護者”がいてそいつが助けに来る算段があるか――あるいは超能力か何かでどうこうできる自信があるかどうか、だ。
恐らく、後者。もし本当にそうならば、彼女が油断している隙に眠らせてしまわなければ、こちらが痛い目を見るということではないのか。
――そんなもんありえねえ、超能力なんかあるわけねえって言いたいとこだが……あのガキが得体の知れない存在なのは、確かだ。
ちょっと強く殴れば簡単に折れてしまいそうな、華奢な少女である。睡眠薬なんて都合のいい薬はないが、それこそ少し首を絞めるなりなんなりするだけでも意識を奪うことはできそうだ。ならば、チャンスは彼女がお風呂に入っている今だろう。
小さな子供を傷つけることに、ちくりと僅かばかりの良心が痛んだが、そんなことも言っていられる状況ではない。風呂場兼トイレからは水音が聞こえている。ドアに鍵をかけてはいないようだ――いくら子供とはいえ、女の子にしては油断がすぎるのではないか。
――やるしかねえ。
耕平はタオルを手に、がちゃりとドアを開けた。するとまるで図っていたように水音がやみ、シャアア、と音を開けてシャワーカーテンが開く。
「あ、おじいさん」
彼女は全裸にもかかわらず、全く恥ずかしがる様子もなく耕平を見た。
「丁度今上がろうとしたところなんですけど……もしかして、トイレ使おうとされてました?だったらごめんなさい」
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