<1・序曲>

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『さて、今回手紙を送ったのはそんな小難しい話をしたかったわけではなくてですね。ちょっとした報告をしようと思ったんです。いろいろと面白い出来事があったもので。貴方も最近退屈だと仰ってたでしょう?怠惰な時間を嫌うという意味で、貴女と私は極めて近い存在にある。退屈しのぎを提供することこそ、日ごろ世話になっている貴女への報恩になるのではないかと思いまして』  報恩ねえ、と私は封筒にみっちり詰まった便箋の束を見る。随分大き目の封筒を使って来たなと思ったが、そういうことだったらしい。折りたたまれていない便箋が、一体何枚入っているやら。しかもどれもこれも、びっしりと文字が詰まっている。 「報恩なんてそんなキャラじゃないでしょーに。暇人か」  半分愚痴も入ってるんだろうな、と思う。彼の言う“面白い出来事”が、本当に純粋な意味で“愉快”であることは稀だと知っているからだ。どうせまた、いろいろな場所でトラブルでも起こしたのだろう。澪本人が望んでも望まなくても、彼が行くところ行くところ面倒が起きるというのは周知の事実である。最近は由羅といることも多いようであるし、彼女も頻繁に巻き込まれていそうだ。  気の毒だとは思うが、それでも澪と一緒にいることを選んだのも由羅である。今度は何があったのやら、と私は便箋を読み進めた。 『由羅さんの境遇についてはお話した通り。特定の邪神を召喚するという名目で、人々を誘拐して殺し合いをさせたり、デスゲームに参加させるという事案は実は由羅さんの一件以外でも起きているらしいということがわかりました。由羅さんはゲームクリア後に元の社会に戻ることができましたが、多くの人々は誘拐されたまま誰一人戻ってきていないようなのです。何やら、おかしな組織が暗躍しているような気がしてきませんか?……っていうか梨乃亜さん、貴女が一枚噛んでたりしませんよね?』 「私そんなに信用ないの?それともジョークのつもりなの、ねえ?」 『とにかく、そういうものを調べて回るのがなかなか面白そうだと思いましたので……少しばかり東京を離れ、各地を由羅さんと旅して回ることにしたのです。あ、一部写真も入れておきますね。良かったらどうぞ。何処に行ったのか当ててみてください』
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