<2・ユウカイ。Ⅰ>

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 十以上は年下の、坊主頭の男は。にこにこと胡散臭い笑みを浮かべて、耕平に告げたのだった。 『ですので、宇治沢さん。もし貴方さえ良ければ……我らの下で働きませんか?幹部候補生として正式に雇用させていただきますよ。多少特殊なお仕事が多いのは事実ですが……貴方は体も大きいですし、年のわりに体力もおありのご様子。成功していただければ、かなり高額なボーナスも弾みますが……いかがでしょう?』  職を転々としすぎて、もはやどこに雇って貰えない、そもそも年齢制限に引っかかるようになりつつあった耕平にとって、ほぼほぼ選択の余地のない誘いだった。とにかく、金がなければ食っていくことができないのだ。特殊な仕事、というのが非常に気にはなったが、提示されたのは推しアイドルのライブに大いに貢いで余りある金額である。  やります、やらせてください、と耕平は言った。  まさかその仕事内容が――神を呼び出すための生贄を見つけて来い、なんてとんでもないものだとはつゆほども予想していなかったわけだが。 『我が神は、長い長い眠りについておられます。近年その同胞達の封印が解かれ、眠りから醒める兆候が見受けられてはいますが……我が神にまだその兆しなし。しかし、この世界に降り立とうとする恐ろしい悪魔を前に、人間はあまりにも無力なのです。対抗するためには、我らが神の力が必要不可欠となるでしょう』  そのために、と幹部の男は続けた。 『必要なのは、生贄。それも、なるべく無垢な魂であればあるほど望ましい。……やって頂けますね?宇治沢耕平さん』  何がやっていただけますね、だ。しかも本部に少しでも近い、大阪近辺で事を行えと注文をつけてきた。何で不慣れな土地で、自分が誘拐事件なんてものを起こさなければいけないのか。教団に与えられた賃貸アパートに連れ込んで監禁すればいい、そうしたら迎えに行くから――なんてことを言われても。 ――交通費と、前払い金を貰ってなけりゃ、こんな仕事絶対断ってたってのに……!  楽しい大阪観光もできず(楽しそうな連中を見ているだけで腹が立っているので、果たして資金があったところで観光なんかできたかどうかは定かでないが)、タダムカムカしながら通り過ぎる人々を品定めしなければいけない屈辱。金を貰えるなら赤の他人がどうなってもいいとは思うが、遠回しに“子供を狙え”と言われているのがかえってハードルを上げている印象だった。そんな浚いやすそうな子供が、一人でふらふら歩いているとも思えないからである。  いや、歩いていたところで、人目につく場所で無理やり車に連れ込むことなどできない。もう少し土地勘があったら、登下校中の子供が通るような“ちょっと人気のない道”で待ち伏せするというやり方もあったかもしれないというのに――。 ――くそっ……くそくそくそくそ!何で俺が犯罪に加担しなくちゃいけねえんだ。見つかったら俺が捕まるんだっつーに!  ああ、でも金は欲しい。
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