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教団からの“給金”は定期的に入っているが、ライブやグッズを楽しむためにはもっともっと金がいる。あのボーナスは正直惜しい。何が何でも手に入れたい。
――どっかにいねえか。浚ってもバレないようなガキ。んでもって、うまいやり方……!
「ねえ、おじいさん」
都合の良い奇跡なんぞ、起きるはずもない。ゲームやアニメの世界ではないのだから――そう思っていた矢先だったのである。
「へっ!?」
その少女が、目の前に現れたのは。
「おじいさん、どうしたんですか?すっごく怖い顔してる」
いつからそこに立っていたのだろう。黒い長い髪に、紫色のワンピースを着た少女が、じっとこちらを見上げていたのである。
何かを言うよりも前に、その猫のような金色の瞳に射抜かれて息が止まった。
日本人離れした、彫の深い顔立ち。白皙の肌、長い睫毛。子供とは思えないほど美しい顔をした少女である。恐らくは、まだ小学校低学年程度の年齢と思われるにも関わらず。
「……な、なんだよお嬢ちゃん。俺になんか用か」
まるで、自分の目的が見透かされたようで焦った。ドギマギしながら視線を逸らし、ひっくり返った声で返事をする。まだ何も悪い事なんかしていない、自分は通りを歩く人々を眺めていただけなのだから――そう心の中で言い訳をしながら。
ひょっとしたら自分は、白昼夢でも見ているのかもしれないと思う。
いかにも生贄に相応しそうな、そして清純そうな幼女に向こうから声をかけられるなんて。金欲しさに、幻でも見たのだろうか。
「お、俺。金なんか持ってねえぞ」
「うん。持ってなさそう、おじいさん」
「ていうか、おじいさんって呼ぶんじゃねえ。俺はそんな年じゃねえぞ」
自分で言ってから、そういえば六十代に足を突っ込んでいたのだった、と思い出した。いつまでも若いつもりだったが、最近は白髪どころか頭にもハゲが目立ってきたし、それ以上に眉毛や髭まで白くなってきたなとは感じていたところである。このくらいの年の女の子からすれば、六十五歳を超えていなかろうと十分おじいさんに見えてしまう年なのかもしれなかった。
ああ、昔はまだ、就職活動で失敗しても“あなたはまだ若いんだから”と言って貰えたのに。今では雇って貰うことさえ難しい年だなんて、本当に馬鹿げているとしか思えない。
「ちょっと、澪さん!何してるんですか!」
パタパタと駆けてくる足音がして見れば、中学生か高校生くらいの女の子がいた。少し明るい髪色にボブカット、丸顔のこちらも可愛らしい少女である。澪、と呼ばれたこの少女の姉か何かだろうか。それにしてはさんづけは奇妙だし、似ても似つかない顔立ちではあるが。
橋まで駆けてきた少女の手には、スーパーの袋に入ったお惣菜があった。うっすらと透けているその形状から察するに、たこ焼きか何かを買ったばかりということらしい。
「もう、人がたこ焼き買ってる間にどっか行っちゃうし!知らない人に声かけてるし!」
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