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「すみません、由羅さん。でも、どうしてもこのおじいさんが気になっちゃって」
「ええ……?」
由羅、と呼ばれた少女は戸惑ったように彼女と耕平を交互に見る。そりゃこういう反応になるわな、としか言えない。そもそも、この澪とかいう少女が自分に声をかけてきた理由が謎でしかないのだ。
「このおじいさんが、とっても寂しそうだから。お話しようと思ったんです。ダメですか?」
澪はこてん、と小首を傾げて言う。可愛らしい所作だが、いかんせん本人があまりにも人間離れした美貌なので現実味がない。そんなこと言われても、と由羅という少女の方も戸惑い気味だ。きっと“ダメです、すぐ帰りますよ”とでも言いだすのだろう、とやや蚊帳の外になった気分で耕平は思っていた。
この人形のような少女が行ってしまうのは少しだけ名残惜しい気もするが、どのみちこの状況で元の目的なんぞ果たせるはずもない。ため息をつこうとした、まさにその時である。
「……仕方ないですね」
なんと由羅が一歩引いた。たこ焼きの入っている袋を抱え直し、こう続けたのである。
「一足先に、ホテルに戻っているべきですか?私」
「はい、由羅さん。そうしてくれると助かります。私はこのおじいさんとお話をしてから帰ります!」
「……今夜はたこ焼きパーティの予定なんですからね。あんまり遅く帰らないでくださいよ」
「ええ、わかってますよ」
耕平の意思をよそに、勝手に話が進んでしまう。あっけにとられているうちに、何をどう納得したのか、由羅という少女は一人でさっさと立ち去ってしまった。二人の関係性も謎ならば、澪が何故この場に一人で残ったのかもさっぱりである。
ぽかん、とする耕平に、澪は。
「おじいさん、そういうわけで、時間はあります。私とお話をしましょう」
「お、おい。何勝手に決めて……っ」
「その方が、おじいさんも嬉しいような気がするんですけど、違いますか?」
心臓が止まるかと思った。やや斜め下から、じいっとこちらを見つめる澪の眼が――きゅっと三日月型に歪むのを見たがゆえに。
そして。
「おじいさんは、私みたいな子供を探していたのでしょう?顔にそう書いてありますよ」
まるで、耕平が生贄として誘拐する子供を探していた――それを分かっていたかのような、その口ぶりに。
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