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「お疲れ様でした……!」
後藤さんが缶コーヒーを差し出しながら、労いの言葉をかけてくれる。
俺はコーヒを受け取り一口、口に含みながら「ありがとうございます」と返す。
いつもは不快に感じる苦味も、今は身体を癒す要因の一つとなってくれている。
しかし身体的な疲れや気疲れもある中、何よりもファンという自分の中で不確かなものが、確かなものに変わった事が何よりも嬉しかった。
「……後藤さん」
「どうしました?」
後藤さんは首を傾げて、不思議そうに俺の方を見るが、俺は構わず話を続ける。
「俺、サイン会やって良かったです。楽しかったです……!」
そう自然と笑顔になれば、後藤さんもつられるように笑ってくれた。今日はなんだか、人間的に成長した気がする。
編集者さんとイベンターさんと談笑をしていたら、突然背後に気配がして振り向いた。
「ほ、本郷先生……お、お疲れ様です……!」
俺は少し言葉に詰まりながらも、挨拶をしてみた。というか、この距離で挨拶しないとなると、少し理由が難しくなる……そもそもどうして俺の背後に立っていたのだろう?
疑問を頭の中に積もらせて、相手を覗き見る。
「お疲れ様です。これを貴方にってこのフロアに入る時に、今そこで預りました」
そう嫌味たらしく、手に持っていた花束を俺に押し付けると、本郷先生は戻って行ってしまった。
俺は手元の花束を見て、中に挟まっているメッセージカードを見てみた。
『お疲れ様でした。いつかまたお食事にでも行きましょう。 佐田』
そのカード見て俺は、走り出していた。
まだ近くにいるかもしれないと、ダメ元で走り回ってみる。
しかし、既に佐田さんの姿はなく、少しがっかりしてしまった。俺は手元の花束を抱き締めて、ゆっくりと息を吐き出した。
「本当に……サイン会開いて良かった……」
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