2 貴族だなんて聞いてない

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 館の中に入ると、白いエプロンをした家政婦が待っていた。  清潔で優しそうな、年配の女性だ。微笑んでレオナルドを迎える。  彼女にレオナルドが声をかけた。 「ただいま。シモーナ」 「お帰りなさいまし。ご主人様」 「彼はカルロ。私を助けてくれた恩人だ。しばらくうちに滞在する」 「かしこまりました」  レオナルドは俺の方を振り向いて言った。 「生活の細かいことは家政婦のシモーナに聞いてくれ。じゃ、おやすみ!」  そして、彼は俺に手を振ってさっさと廊下で別れてしまった。  急に見知らぬ屋敷に置いてゆかれたので、俺はぽかんとしてしまった。  なんか、ずいぶんあっさりなんだな……。  息子さんのことを聞きたかったんだけど。  ま、明日の朝に聞けばいいか。  息子さんも朝食には来るよね。  レオナルドに向かって、俺はバイバイと手を振った。  でも、それが俺がレオナルドを見た最後だった。  別に死んだわけじゃないけど、ともかく彼とはしばらく会えなくなってしまったんだ……。  後から考えると、是が非でも引き留めておけば良かったなって思うんだけど。
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