カエルの恩返し

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カエルの恩返し

「あっつ……」  岩部は玄関を出てすぐに引き返したくなった。  まだ朝なのにじりじりと肌を焼く日差しにげんなりする。今日も雲一つ無い晴天だ。  七月に入ったばかりなのに、これでは先が思いやられる。  時間が経てば経つほど余計に暑くなるだけだと、覚悟を決めて家を出ようとした時だった。 「岩部殿、今日は雨が降りますゆえ、傘をお持ちください!」  少し甲高い、子供の声がした。辺りを見回すが誰もいない。 「幻聴が聞こえるなんてヤベェ」  外に出て5分も経っていないのにもう暑さにやられてしまったのか。休めるなら休みたいが、今日から期末試験だからそうもいかない。  頭を振り、頬を軽く叩き気を取り直す。そして一歩踏み出した。 「岩部殿!傘、傘をお持ちください!」  また聞こえた声に、ピタリと止まる。先程より注意深く物陰も伺うが誰かが潜んでいる気配はない。いよいよ、今日は自覚がないだけで調子が悪いのかと考え込んだ時だった。 「ここ、ここです!足元をご覧下さい!岩部殿!」  声に導かれ足元を見やると、緑の物体がピョンピョン跳ねている。  しゃがみこみ近づいてみると、綺麗な若草色のアマガエルが炎天下の玄関先にいた。 「なんでカエルがこんな所に……」  岩部の漏らした呟きを、話しかけられたと勘違いしたカエルが嬉々として喋りだした。 「私めは一週間ほど前に、岩部殿に助けていただいたカエルにございます。ご恩を返す為にやってまいりました!」
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