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エステル王女は小さい頃から美しいとは良く言われ、その美を褒め称える人々は多いが可愛らしい、と言ってくる他者に出会ったことがまずなかった。
可愛いなんて両親である王と王妃、乳母といった身近な人物くらいであり、エマヌエーレにそう言われて面食らう。
「可愛いらしいって歳下だから子供に見るのかしら」
「そう言う訳では無いのです」
エマヌエーレはそう言ってエステル王女の口元についたレモンパイのクリームを指で拭い、そのままクリームのついた自らの指を舐めた。
クリームの甘さとレモンの爽やかな酸味が目の前の初々しい恥じらいを見せる少女と重なる。
「な!な!!!!」
更に真っ赤になって言葉もまともに出てこないエステル王女にエマヌエーレは笑顔を見せる。
そう、エステル王女は王侯貴族に対して慣れた態度を取るものの、男慣れ自体はしていないな、とエマヌエーレは判断し更に積極的に行動しよう、と思ったのだ。
「可愛い人だ...」
笑顔で見つめるエマヌエーレにエステル王女はなす術もなく、その日はそれ以降の会話も成り立たないまま終わってしまったのだった。
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