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「貴方が夜1人で歩いてて、迷子かと思って声をかけた。服はお嬢様みたいに可愛いものを身に付けているのに裸足で、よく見ると明らかに人に付けられた傷で身体が覆われていて。」
まるで物語を思い起して話すようなその口調は、奇妙で、恐ろしい。
「うちに来る?って言ったら頷いたの。」
「子どもが産めない身体と知ったばかりの私には、神様からの…贈り物だと思ったの。選ばれたと、思ったの…。」
母の話を必死に聞きながら、断片的に蘇ってゆくものがある。
ずっと身体に閉じ込めて、今まで自分にすら隠し続けたもの。
傷、フリフリの服、空腹、寒さ。
怒号、熱い煙草、知らない男の人、押入れの匂い。
「今日の道は今日のたんぽぽが咲く、やから今日を楽しく生きなきゃならんのよ」とぐちゃぐちゃになって泣く女。
夜遅くまで誰もいない部屋を勝手に抜け出して、行く先の公園。
声をかけてくれた子、毎日一緒にいてくれた、男の子。
『…夏樹。』
…そうか夏樹は、あの時の私にとって唯一の、救いだったんだ。
死と隣り合わせの何も手に入れられない日々で、唯一、持てるものだったんだ。
「貴女は私の子ではない。」
『…、』
目も当てられないほどに非道な過去は、とてもじゃないけど受け入れられるものではなく、私は泣き叫べばいいのか、それとも気を失って倒れればいいのか、わからなかった。
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