過去化粧

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入学式が終わり、学部ごとに案内された大教室に入る。 私が入学した総合心理学部には150人の新入生がいて、与えられた学籍番号順に、席についてゆく。 私も、日野梨沙子、と自分の名の席を探して、真ん中より後ろ側に足をすすめる。 2人掛けの机に名を見つけ椅子を引くと、既に着席している隣の男と目が合った。 「えっ…」 …? 男が小さく漏らした声は、間違いなく私に向けられている。 人の顔を見て、えっ?って声を出すって何事だ。 なんだこいつは、という態度を全面に出すと、慌てた様子で次ははっきりと声を掛けてきた。 「びっくりしたわ…、お前、めっちゃ似てんねんもん。」 特徴的な方言は関西のものだろう。 聞き慣れない口調にますます目を顰めてしまう。 『…誰に?』 「ちっさい頃一緒におった…俺がずっと探してる人。」 『…ポエマー?』 危ない人、か、おかしい人。 それがこの男への第一印象だ。 そりゃあそうだろう。 出会って開口一番で、どこかで聞いた懐メロのような台詞をぶつけられているのだ。 席に着くと、男は猫背をグッと伸ばして、私の方に身体を寄せる。 座ってても分かる、大きな身体。 私は思わずちょっとだけ避けるように身を引いてしまう。 「俺、柊夏樹。お前はユナ?」 『…日野梨沙子。誰だよユナ…。』 変なやつは相手にすればするほど図に乗るから、とあしらうように投げる返事。 しかし柊夏樹と名乗った男は、私の露骨な嫌な顔を吹き飛ばすように屈託のない笑みを見せるものだから、ますます調子が狂ってしまった。
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