過去化粧

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*** 大学生活は楽しい。 学びたかった学問は学ぶのはもちろん、バイトもサークルも遊びも、全部予想以上に楽しい。 「梨沙子!置いてくで!」 『待ってよ夏樹。』 中でも予想外だったのは、入学式の日に変な出会いを果たした夏樹とすぐに仲良くなったことだ。 名簿が前後というだけでなく、同じになったクラス分け、入った旅行サークル。 4月5月、6月と時間が経ち、夏が近づく頃にはすっかり一緒に時間を共にするようになった。 変なやつ、から面白いやつに変わり、肩書きだって変わってゆく。 私から夏樹に向く感情は、友情だけではないかもしれない。 きっと、私は夏樹のことが____ 抱える想いにはそろそろ名前が付きそうだが、今はまだ気付かないフリをする。 今、この瞬間が堪らなく楽しい。 「あー、売り切れてる…昨日のこの時間はあったのになあ。」 『仕方ない。今日の道には今日のたんぽぽが咲く、だよ夏樹。また来ようよ。』 2限後いつも通り、学食1番人気のローストビーフ丼を食べるために、第二号棟にやってきた時だった。 あからさまにがっかりしていた夏樹が急に動きを止めたのは。 『夏樹?』 振り返ると彼は私の顔をじっと見つめて、今まで見せたことのない表情をしていた。 …いや、一度だけ私は見たことがある。 入学式のあの日、私を見つけた時と同じ顔だ。
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