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「お前それ…。」
『ん?』
「や、…それなんか有名な名言なん?」
夏樹が何に驚いているのか分からなかったが、それは私が口に出した言葉を指しているようだった。
今日の道には今日のたんぽぽが咲く、私にとっては何の変哲もない口癖のようなもの。
幽霊でも見たかのような驚いた表情の意味が、私には分からない。
『知らないけど、お母さんがよく言ってたんだよね。』
答えると、夏樹は立ち止まったまま黙り込んでしまった。
言葉を噛み、発するのを躊躇っているようだ。
『ちょ、何よ?』
「なあ、真剣な話していい?」
テンポのずれる空気感の中、ようやく聞こえた夏樹の声は、少し冷たくて重い。
「ユナの、話。」
固い口調で彼が発したのは、聞いたことのある女性の名前。
『ああ、なんだっけ、夏樹が探してるって人の話?」
頭を捻って思い出す。
そうだ、あれは入学式の日、夏樹が私にかけた名だ。
「俺の近所に…ユナって女の子がいたんよ。ずっと外で遊んでる子やったからいつの間にか仲良くなって、多分、幼馴染みたいな。」
「外遊びばっかやからか、いっつも傷だらけで…。でも女の子っぽいところもあったんよ、めちゃくちゃフリフリの服とか着てることもあったし。」
傷、フリフリの服、空腹、寒さ…。
夏樹の話には出てきていないキーワードが、何故だろう、頭によぎってイメージになる。
「…お前がさっき言った「今日の道には今日のたんぽぽが咲く」ってのは、ユナがいっつも俺に言ってたことや。」
あれ、私、その話___
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