過去化粧

6/14
前へ
/14ページ
次へ
「お前それ…。」 『ん?』 「や、…それなんか有名な名言なん?」 夏樹が何に驚いているのか分からなかったが、それは私が口に出した言葉を指しているようだった。 今日の道には今日のたんぽぽが咲く、私にとっては何の変哲もない口癖のようなもの。 幽霊でも見たかのような驚いた表情の意味が、私には分からない。 『知らないけど、お母さんがよく言ってたんだよね。』 答えると、夏樹は立ち止まったまま黙り込んでしまった。 言葉を噛み、発するのを躊躇っているようだ。 『ちょ、何よ?』 「なあ、真剣な話していい?」 テンポのずれる空気感の中、ようやく聞こえた夏樹の声は、少し冷たくて重い。 「ユナの、話。」 固い口調で彼が発したのは、聞いたことのある女性の名前。 『ああ、なんだっけ、夏樹が探してるって人の話?」 頭を捻って思い出す。 そうだ、あれは入学式の日、夏樹が私にかけた名だ。 「俺の近所に…ユナって女の子がいたんよ。ずっと外で遊んでる子やったからいつの間にか仲良くなって、多分、幼馴染みたいな。」 「外遊びばっかやからか、いっつも傷だらけで…。でも女の子っぽいところもあったんよ、めちゃくちゃフリフリの服とか着てることもあったし。」 傷、フリフリの服、空腹、寒さ…。 夏樹の話には出てきていないキーワードが、何故だろう、頭によぎってイメージになる。 「…お前がさっき言った「今日の道には今日のたんぽぽが咲く」ってのは、ユナがいっつも俺に言ってたことや。」 あれ、私、その話___
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加