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「よう覚えてる。ちっさい俺が覚えるくらい、唱えてたからな。何かのまじないみたいに。やけど…」
その瞬間、ズキ、と鈍い痛みが頭の内側から広がった。
まるで、何かに抵抗されてるみたいだ。
ピカ、と脳内に走ったのは細い細い稲妻。
その鋭い雷光に照らされて、何かが見えそうで、見えない。
「梨沙子、…大丈夫?」
耳を逸らせないのに、逃げ出したい。
この衝動の正体を知りたいのに、知りたくない。
『…ねえ、夏樹。だけど、何?』
「ユナは消えてん。急にな。」
消えた___
意を決した眼差しで、夏樹が発したのは人に使うものとは思えない言葉。
その耳障りの悪さに、身震いをしてしまう。
「幼かったしその意味は分かランかったし、待てど暮らせどユナはもう現れなかったけど、…もう10年以上経つのに忘れんねん。ずっと会いたいって思ってた。」
記憶がすっぽりと失われている幼少期、口癖、痛みと共に頭を過ぎる違和感。
何だか点が繋がってしまいそうで、突拍子もない仮定が生まれる。
「お前、ユナか…?」
仮定を言葉にしたのは、夏樹。
こんな馬鹿げた話をすぐに否定出来ないのは、私の頭にも浮かんでしまったから。
『っ…、』
これ以上は、だめだった。
この場において私は、自分を自分で保っていられなくなってしまう。
私は夏樹の問いにイエスノーを言えぬまま、脱走犯人かのように、大学から逃げ出すためアスファルトを蹴った。
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