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「天使さんは、名前はないの?」
私は、時々一人きりの時、小さく天使さんに話しかける。本当に人がいないときだけ、天使さんも答える。
「僕は、天使さんだからね」
「それはあたしが呼ぶだけでしょ。本当の名前はないの?」
「ううーん、ないような、あるような」
「なにそれ」
はぐらかすのも下手くそな、素直な天使さん。
私は彼が大好きだった。彼も、舞亜は僕にとって大切で大事で大好きだよ、と、歌うような澄んだ声で囁いてくれた。
私たちは、まるで仲の良い兄弟みたいだった。あるいは、親友。あるいは双子。あるいは──恋人。いつもどこへ行くにも一緒だったし、いつも物忘れのひどいおじさんを小声でからかって、天使さんが笑いながら叱ることもあった。たまに出かけるときなんかも、彼はこの手を握って、舞亜、僕がついているよ、なんて、緊張した声で言った。
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