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がしゃん。
ひどい音がして、私は目を覚ました。感触に、布団の中だと理解する。どこかで、お母さんが叫んでいる。ヒステリックにひきつった声を聞くと胸がざわざわして泣きたくなって、私は耳をふさいだ。
「天使さん、天使さん」
半泣きになって呼び掛ければ、どこかへ行っていたきらきらした暖かな気配が戻ってきて、私の耳をふさいだ指の先に触れた。
「ここにいるよ、舞亜」
「お母さんが叫んでる」
「そうだね……」
「お父さんも怒ってる」
「きっと悲しいことかつらいことがあったんだ」
穏やかな囁きを聞いていると、次第に心が落ち着いてきた。私は深呼吸して、耳をふさいだ手を離した。
気が付けば怒鳴り声は止んでいて、お母さんの啜り泣くような声とお父さんの低く小さな声が聞こえるだけになっていた。
「何があったのかな」
「……」
天使さんは答えなかった。ただ、迷うような吐息を漏らして、黙っている。
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