天使さんの願い

5/11
前へ
/11ページ
次へ
「天使さんは、知ってるのね」 「……知らないよ」 「うそ」 「……うん、ごめん」  素直に謝って、天使さんは黙った。答えたくないのだ。私はそれと察して、寝転んだまま天使さんの手を握った。 「私が、知っちゃいけないこと?」 「きみは知る権利がある。……でも」 「ん?」 「でも、知らずにいて欲しい」  それは、切実な言葉だった。囁く声は吐息に揺れて、掠れて、痛々しい響きをしていた。私はくすりとする。 「わかったよ」 「えっ?」 「あたしは知らずにいる。それが天使さんの願いなんでしょ」  天使さんは小さく息を飲んだ。苦笑にも似た吐息をこぼして、うん、と答える。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加