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舞亜は眠っていることが多くなった。
宿題をしていても、とろとろと眠り始めてしまって、僕がそっと手の甲をつつく。そうすると、はっと目を覚ましてまた教科書の上に指を馳せる。
生まれつき、舞亜は視界が弱い。光とか、暗さとかは感じられるみたいだけど、お母さんが何色の髪をしていて、お父さんがどんな眼鏡を掛けているのかとか、知らない。勿論、どんな顔をしているのかも。
舞亜は、また眠り始めている。これで三度目。三回目は起こさないと決めている僕は、そっと舞亜の体を抱き締めた。そして、ふさふさの薄桃色のラグの上に横たえる。枕なんかあった方がいいんだと思うけど、そこまでしたら不自然かな。
こっそりと体を離す。舞亜は、警戒とか悩みとかとは無縁みたいな寝顔で眠っている。それがたまらなく愛しくてたまらなく、悲しい。
舞亜の髪を撫でる。柔らかな、まっすぐ素直に伸びた髪。近頃はクラスメイトに憧れて、伸ばしかけている髪。
僕は、舞亜から離れて、首から提げた端末を開いた。数字が羅列する画面を、ぼんやり眺める。
舞亜はもう長くない。
それは、僕だけが知る、あるいは彼女の両親も薄々勘づいている事実。
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