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本棚に追加木瀬は俺を好きじゃない。好きじゃなかった。
それで。
なんで俺はこんなに落ちてんだ?
「…俺は振られてない」
分かりやすく自席に突っ伏しままいじけて呟く蓮多を、仲の良い東と仁志、更には喜田と皆実も総出で励ます。
「まあまあ。お前と木瀬は永遠のライバルっていうかさ」
「掛け合い漫才っていうか」
「惚れた腫れたの次元を超えた関係っていうか」
「木瀬くんは最初から蓮多のこと眼中にないっていうかね」
こいつら面白がってるだけだろう。
とは思うが。
「…親友なんて思ったことない、ってそういう意味か?」
思い返しながら蓮多はゆっくり頭を上げた。
「蓮多、そんなこと言われてたんだ」
「友だちとも思われてなかったのか」
「さすが孤高の木瀬」「アイス王子、容赦ない」
木瀬が俺を好きかもしれないという壮大な展開に備えるため、モモの散歩をさぼってまで整えたオレンジ頭は、今や見る影もなくモシャモシャに崩れている。
が、もういい。
「あれは木瀬のライバル宣言だったのか」
「お、立った」
怒るべきでも悲しむべきでもなかった。奮い立つべきだったんだ。
そもそも蓮多は木瀬に勝つために近づいたのだ。
ちょっとくらいピンク色の制服姿が可愛いからって何だというのだ。あの優しい笑顔を知ってるのが自分だけだとか、ちょっと忘れられないキスをされたとか、それがどうした。そんなことで浮かれている場合ではない。
「…や、浮かれてねえし」
「お、座った」
無意識に座ってしまった自分に喝を入れる。
ついでに落ち込んでもいない。ちょっとくらい胸の奥が痛い気がするのも気のせいだ。
「誰であろうと俺の前に出る奴は倒す」
バンと音を立てて机に手を置き、立ちあがる。
「おお、また立った」「頑張れ、蓮多」
「負けるな、蓮多」「やればできる子」
やってやる。
蓮多は木瀬の姿を探して教室を見回し、いないと分かると廊下を走った。トイレに違いない。
思った通り、男子トイレの前で、出てきたばかりの木瀬を発見した。
「待て、木瀬っ」
呼び止めると若干面倒くさそうに立ち止まった木瀬に、躍りかかって胸倉を掴み上げ、
「お、い…っ」
思いっきり口づけてやった。
「何してんだ、このバカ。誰かに見られたら、…っ」
珍しく木瀬が動揺して、辺りを見回している。幸いにもこの劇的瞬間をスクープされた様子はなさそうだったが、蓮多にとって、そんなことはどうでもいい。
やってやったぜ。
つぶらなアーモンド形の瞳を見開いて、動揺を隠し切れずにいる木瀬の顔に人差し指を突きつけて、宣言してやる。
「俺の方が上手いからな。ドキッとした方が負けだから!」
待ったなしの不意打ちキス勝負。勝利宣言。勝つのは俺だ。
木瀬はあっけに取られたような顔をしてまじまじと蓮多を見つめた後、
「…お前がバカで本当に良かった」
何やらムカつく言葉をつぶやいてから、不敵に笑った。
「いいよ、乗った。絶対に負けない」
何だかムカつくのに笑顔が優しくて、口角を上げた唇が艶やかで、その潤って弾む唇をまた生で感じてしまったという実感が遅ればせながら込み上げてきて、蓮多は慌てて踵を返した。自分でしておいて不覚にもドキドキしたなどと悟られてはいけない。
これは男の意地をかけた真剣勝負。
決してもう一度木瀬とキスしたかったとか、そういうわけではない。

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