花火にのせて

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. 「明日、病室変わるんけん」  優介は桜を見下ろしながら春子に言った。 「いよいよ、駄目かい? あはは」  春子は優介の背中に笑いながら答えた。  窓から入り込んで来る風に乗って、暖かい春のどことなく甘い香りと一緒に、優介の服に染み着いた火薬の匂いが、春子の鼻をくすぐった。  その懐かしい火薬の匂いと共に、亡き夫の姿を優介の背中に映し出していた。 「……、母ちゃん」 「なんね」 「つまらんこと言うたら仕舞いに怒るったい」  優介は腕組みしながら空を仰いだ。 「……、悪かったね、もう言わんけん」 「あぁ、立花先生は回復に向かっとる言うてる。飯ばうんと喰うて、たまには外を散歩したらよかよ」  優介の震える肩を春子はじっと見つめながら、鼻を啜った。  暫く沈黙が続く病室には、窓から入ってくる春の甘い香りと、人工的な病院の染み付いた匂いと、優介の服から微かに漂う火薬の匂いが入り混じっていた。 「‥‥、また来るけん」  涙目を見られまいと優介は春子の顔を見ずに病室を後にした。  春子は重い身体を引きずるかのように窓辺に向かうと、一直線に立ち並ぶ桜を先端まで追い掛けてから、ゆっくりと窓を閉めた。  ベッドに横になり天井を眺めながら、優介が病室に残した微かな火薬の匂いを確かめるかのように、鼻で深く息を吸い込んだ。  火薬の匂いが春子の鼻に届くと、春子の不安と共に遠い記憶が目を覚ました。 .
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