花火にのせて

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. 「悪かね、高校へは行かしてあげれんたい」  十年前の秋、春子は優介の部屋の入り口に立って、白いエプロンの裾で涙を拭いていた。 「気にせんでもよか」 「母ちゃんの稼ぎだけじゃ」 「言わんでもよか!」  気を使う優介は春子の言葉に被せた。 「仕事は母ちゃんが見つけてくるけん」 「……、父ちゃんの夢叶えるけん、花火職人になるったい」 「それだけは止めてくれんね、父ちゃんの二の舞を……、あんたには……」  春子は亡き夫が描いた花火の設計図を眺めている優介を見下ろしながら、仕切りに涙をエプロンの袖で拭った。 「……、まだ誰も打ち上げた事のなか、この花火を打ち上げたかたい」 「花火職人だけは、やめんね!」 「父ちゃんは母ちゃんが好きや言うとる桜を花火にするって、ずっと言っとたけん」  黄ばんだ花火の設計図を机の引き出しに仕舞い込みながら、優介は春子を見ていた。 「それだけは、母ちゃん許さんけん!」  優介の部屋の襖を勢い良く閉めて、春子は居間へと戻った。  優介の決意は頑なだった。  祭りの季節が近づく度に優介は、打ち上げ花火の倉庫に良く父に連れられて行っては、尺玉運びを手伝わされていた。  幼い頃から身近に花火に触れていた優介にとっては、亡き父の夢を叶えたい一心だった。 .
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